twitterであげていたおはなし。

□お仕置きは何がいい?
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「お前らはまた…懲りないな!」

…ヤバイ。
いつもより大きい雷に巨神兵と共に震え上がった。

巨神兵とは、同じクラスで日露ハーフのリエーフのこと。
中学までバレーをやっていたわたしと、高校からバレーを始めた彼。
席も近くてよく話していたけれど、
わたしが男子バレー部のマネージャーになったものだから、余計意気投合した。

「お前、身長高いんだし経験者なんだし、女バレ入ればいいのに」

リエーフの言う通り、わたしは女子にしては高めの172センチ。
194もあるリエーフといると、違和感なく「女子」かもしれないけど、
普通の男子とは目線がほぼ同じ、もしくはわたしの方が高かったりする。

なぜプレイヤーではなく、マネージャー、しかも男子部の、なのか。
答えは簡単。
好きになった人が、男子バレー部にいたから。


入学して間もない頃、友達と女子バレー部の見学に行った。
女バレの先輩たちはわたしを見て、背が高いねえとホクホク顔だったが
残念ながらわたしの目は、もう一方のコートに奪われていた。
休憩時間と思われる男子バレー部の面々の中、
床にぺたりと座り込み、ドリンクを片手に無邪気な笑顔を見せていた彼。
あの笑顔に吸い寄せられるかのように男子バレー部への入部届を書いたのだ。

入部してからわかったのだが、その人は部内でも一二を争うほど、小さかった。
ショックなことに、わたしよりも。
そして、怒るとものすごく怖かった。

主将でも副主将でもない、自分より背丈の小さなこの先輩は
「お目付け役」という肩書きがぴったりだ。
主将の黒尾さんは、締める時は締めるけど周りに突っ込まれている緩さがあるし
副主将の海さんはいつも穏やかに微笑んでいて、怒っているところを見たことがない。

その分、このミクロで人一倍世話焼きな先輩が
後輩の尻を叩いたり、揉め事が起きないように見張っている。

マネのわたしにも、何かあったら相談しろよと気さくに接してくれた。
山本が待ちに待った女子マネだから、逃げられたら困るもんね、なんて言いながら。

知れば知るほど、そんな夜久さんを好きになった。


部員の中でも一番親しいリエーフとは、冗談を言い合ったりふざけあうことが多い。
その度にわたしたちは夜久さんにこってり絞られていた。

今日も全体練が終わった後
リエーフと二人でボール遊びに夢中になっていて、たった今、雷が落ちたのだ。
わたしとリエーフと夜久さん以外は、
これから始まる自主練の準備をしたり、部室に戻ろうとしていて(研磨さんだけ、だけど)
「また怒られてんなー」といった顔で遠くからわたしたち3人を見つめている。

リエーフは罰として、レシーブ100本やり切るまで帰さないということに。
うげぇ、と声を漏らした奴のお尻を、遠慮なく蹴り上げる小さな体。

「レギュラーになりたいなら、レシーブ甘くみるな。スパイクだけじゃ勝てないんだから」

はぁい、と言ってお尻をさすりながら、自主練組の輪に加わるリエーフ。

そして、残ったのはわたし。

「お前へのお仕置きは…そうだな、選ばせてやろうかな」

意地悪い口調に、どんな罰が待ち構えてるかと思うと背中がゾクッとした。
すると夜久さんはわたしとの距離を一歩詰めてから、
今の口調が嘘みたいなやわらかい囁きを残す。

「土曜練習の時に俺に弁当を作ってくる、俺と一緒に帰る、…俺の彼女になる、どれがいい?」

あまりにもさらっと言うから頭の中で反芻してみると、
手作り弁当、一緒に帰る、…彼女になる?
わたしにとってはお仕置きどころか、願ったり叶ったりなラインナップ。
もうこれ、確定でしょ。
夜久さん、わたしのこと好き、ってことだよね?

あっけにとられているわたしを見て、夜久さんは徐々に顔を赤らめる。
部活後の熱気じゃなくて、これは…照れだ。

「…そんな顔するなよ。どさくさに紛れてとんでもないこと言ったなって、恥ずかしいんだからな」

みんなの目を気にしながら、声のトーンを落とし話を続けた。

「リエーフと遊んでんの注意したのは、部活真面目にやれって意味ももちろんあるけど、
あんまり楽しそうにしてるから…妬けたんだよ。
俺がリエーフにヤキモチ妬くとか、情けないだろ」

そんなこと思ってたんだ。
ニヤニヤを抑えようとするあまり、マヌケな顔になっているであろうわたしを
訝しげに見つめる夜久さん。

「夜久さーん、俺、急用を思い出したので帰らせていただきます!というか、帰ります!」

いつのまにか自主練組の輪から離れ、
体育館の出口から顔だけ覗かせたリエーフが、大声で言うやいなや姿を消した。

「おい!こら!逃げんな!」

口ではそう言ったけれど、夜久さんは追いかけなかった。
せっかくだから、言わせてもらおうかな。

「…お仕置き、選びますね。夜久さんと一緒に帰ります!」
「えっ!?」

驚きと喜びの入り混じった顔は新鮮。
調子に乗って、もっと違う顔を見たくなった。

「あ、”彼女になる”の方がいいですよね。夜久さん、わたしのこと好きなんですもんね」
「お前なぁ…」

真っ赤な顔で全然迫力のない睨みをきかせてくる。
わたしの勝ちかな。

可愛げなくて、ごめんなさい。
今は照れくさくて言えないけど、後で制服に着替えてから、ちゃんと言います。

わたしがずっと見ていたのは、あなたです。

あと、これも言わなきゃ。
自分より身長高い彼女でもいいんですか、って。
おっと、怒らないでくださいね。これも愛情なんです。

好きな人をからかいたくなるのは、女の子も同じなんですよ。

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