twitterであげていたおはなし。

□潔子さんと自分を比べちゃうマネのお話。
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言われた通り身支度を済ませ、体育館裏で彼を待つ。
いつも真っ先に着替えて帰っていくほど素早いくせに、今日はなんだか時間がかかっているような。
すると、向こうから手を挙げて走ってくる彼。

「待たせたな」
「うん、待った」
「お前…あんだけ心配したのに」

まだ目が赤いけど、制服に着替えたら少しずつ落ち着いたからか、
いつものやり取りができるまでに回復していた。

「みんな、もう帰ったからよ。坂ノ下にも今日は寄らないんだと。
だから安心して、顔上げて帰っていいぞ」

無頓着かと思いきや、わたしのことを気遣い
みんなが帰るのを確認してから、帰らせようとしてくれてたんだね。
…こういうとこ、好きだ。

薄暗くなった坂を二人で下っていると、
「お前はゆっくり歩いてこい」と言い放ち、坂ノ下商店めがけて走っていった。
わたしがお店の前に着くのほぼ同時に、店から出てくる彼。
その手には、アイスの袋がふたつ。

「泣きっつらは、これで冷やせ!」

ソーダ味のアイスの袋を頬にくっつけられた。
ひんやりと、気持ちいい。
袋を開け、並んで歩きながらアイスを口にする。

「お前さ、マネージャーつらかったりする?」

唐突に彼の口から出た言葉。
わたし、そんな風に見えてたのかな。

「俺が無理矢理誘ったのに1年も続けてくれてさ。
もしかしたら今日のは、悩んでて、耐えられなくなったからじゃないかって思った」

早々にアイスを食べ終え、わたしに合わせてゆっくりと歩いてくれている。
静かな田園風景に吹く風が、彼の逆立てた髪を揺らしていた。

「違うよ」

精一杯声を絞り出し、一言だけ伝える。
そうじゃないよ。
誘ってもらえて、必要とされて嬉しかったよ。

「それなら、いいんだけどさ。
お前が笑ってたほうが、俺も楽しいし!」

このままでいいのか。
意地っ張りで可愛げのないまま、いつか彼の隣を
他の女の子が占めることになっても、耐えられる強さはあるのか。
…答えは、NOだ。

「西谷、さっきはごめんね」

頑張れば、言えるじゃん。
胸のつかえがスッと取れ、一気に風通しがよくなった心と喉。
今なら、自分の想いを素直に伝えられそうだ。

「何のこと?お前に謝られるようなことあったっけ?」

え、まさか。気にしてなかったとか。
じゃああの時の真顔は何なの。

「休憩の時に、清水先輩に相手にされてないとか、不毛な恋とかって言っちゃったから…
じーっと顔見てくるからちょっと怖かったし」
「ああ、あれか。そりゃ、潔子さんは高嶺の花ってヤツだからな!
怖い顔してたか、俺?話を聞く時は人の目を見なさい、ってじいちゃんがだな…」

高嶺の花、だってさ。
自分には一生つかない名称に、心がくしゃりとしぼみそうになる。

「潔子さんは『憧れ』だから。
つきあいたいとか、自分のものにしたいとかっていうのとはちょっと違うな」

…そういうことか。
本気で先輩にアタックしてると勘違いしていた自分がバカバカしく思えた。
涙とは別の意味で赤くなっているであろうわたしの顔を覗きこんで
彼はためらいなく言う。

「何、お前、俺が本気で潔子さんに惚れてるって思ってたの」

本人の口から言われると余計恥ずかしくて、俯く角度が深くなった。
こっそり目だけ動かし彼の顔を確認すると、
ふーん、と言いながら歯を見せてニヤニヤと笑っている。
そして悔しいけど、こんな奴に惚れてる自分。

「美人でソツなく仕事ができる先輩もいいけど…
一緒にバカやったり、軽口叩きあえるほうが、そばにいて楽しいじゃん」

彼と一番長い時間を過ごしている女の子。
それがわたしだという自負はある。
だからと言って受け入れてもらえるという確証はないけれど、言うなら今だと思った。

「西谷。…好き」

顔を上げ震える声で、それだけをぶつけた。
どこが好きとか、いつから好きとか、言いたいことは山ほどあるけど
今はとにかく気持ちをシンプルに伝えたかった。

少しの沈黙に緊張しながら反応を待っていると
あいていた右手を奪い取り、指同士を絡め手のひらにぎゅっと力を込めてきた。

「先に言われちまったの、悔しいな。…俺も好きだよ」

ずるい。そんな男前な顔しないで。
これ以上、わたしの心を持っていかないでよ。
そう言いそうになったのをこらえると、今度は涙腺が限界を迎える。

この次に流す涙は、きっと温かい。
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