twitterであげていたおはなし。

□嫌いでいてほしい
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わたしを漢字一文字で表すとしたら「無」だと思う。

無人の教室に安心感を覚え、決して無理はせず安全策を取る。
笑顔を振りまくなんてできずにいつも無愛想。

ひとりが楽だし慣れているし、悪目立ちしそうなことには絶対に手を出さない。
笑顔は頑張ってようやく作れるといったありさま。
残念な女子高生だという自覚はある。


そういうわたしには高確率で、クラスで委員や係を決める時に面倒な役目がまわってくる。
人気者やお調子者が持ち上げられてクラス委員長になっているケースもあるけれど
このクラスでは、部活もやっておらず手持ち無沙汰なわたしに、自然とクラス委員長の椅子が押し付けられるのだ。

真面目そうだから、しっかりしてるから。
なんて体のいい言葉を並べられてもうれしくない。
でも結局引き受けてしまう、損な性格。


ある日、来月に控えた校外学習に向けて、資料作りの任務が課せられた。
もちろん他にクラス委員はいるのだが、彼らは部活に出払っている。
わたしは帰宅部だから仕方ない。
それに、ひとりの方が気を張らなくて楽だから、むしろ好都合だ。

タイムテーブルや見学先の解説資料のレイアウトを
あーでもない、こーでもない、と試行錯誤しているうちに
時計の針は午後7時をさしていた。

そろそろ切り上げようかな。
筆記用具をしまっていたら、教室の扉がスパンと勢いよく開く。
そこに立っていたのはバレー部の西谷だ。
おかしな四字熟語のTシャツを着て、部活のせいでほてった顔をこちらに向ける。

「委員長!いたのか」

ニッと笑う。
わたしがどう頑張っても出せない表情。
彼の3分の1でいいから笑顔ができれば、人に好かれるのかなと思った。

「俺さ、忘れもんしちゃって」

てっきり宿題になっていた問題集か何かかと思ったら、
机をゴソゴソして取り出したのは大判のシップの入った箱だった。

「慣れたとはいえ、ボールって当たると結構痛いんだぜ」

何も聞いていないのに一人で話し続ける。
こういう、元気のかたまり、クラスの中心、みたいなタイプは正直嫌いだ。
確か彼は春先、教頭を突き飛ばして謹慎を食らった。
そんな問題児とは、できるだけ関わりたくない。

わたしの思惑は外れ、彼はつかつかと近寄ると
いかにも言いそう、とわたしが予想した通りのことを言った。

「先生に頼まれたのか?大変だな。とはいっても俺は何も手伝えねえし…」

いいです。結構です。
放っておいてもらえるのがありがたいんですけど。

「よし!応援に来てやるよ。これまだ、完成してないんだろ?
明日から、またこれくらいの時間に来るからな」

せめてもうちょっと静かで口数の少ない人ならと思ったが、
よく考えたら、そういう人はこんな申し出はしない。

「…部活があるんじゃナイデスカ」

機械的に、かつ、やんわりと申し出を断る空気を彼に告げる。
しかし、彼は屈託のない笑顔でわたしの背中をバンと叩いた。

「部活は今週、6時半までなんだよ!心配すんなって!」

ガハハと笑って、軽く手を挙げると教室を出て行った。
叩かれた背中が痛い。明日からのことを考えると、肩がずしりと重く感じた。


翌日、約束通り彼は放課後の教室に顔を見せた。
「おー!やってるな。調子はどうだ?」と軽妙な口調。
来たはいいが、手伝えないと断言するだけあって、
一人でベラベラと部活のことや友達のことを話している。
適当に相槌を打ちながら、資料とにらめっこするわたし。

それからも毎日、彼は懲りずに邪魔をしにくる。
わたしは拒絶するのを諦め、彼の話を息抜き程度に聞いてあげることにした。

バレーのことはよくわからなかったけど、リベロという守備に特化したポジションをやっていることを彼が誇りに思っていることはわかった。
バレーは身長が高い人がやるスポーツだと思っていたけれど、
低い人でもこんなに生き生きと語れるほど、夢中になれるスポーツなんだろうな。
少しだけ、彼を見る目が変わったかもしれない。
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