twitterであげていたおはなし。

□黒縁メガネのキューピッド
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保健室の扉は、教室よりも軽やかに音を立てて開いた。
シンと静まり返り、先生がいるはずの場所には風を受けてはためく白いカーテン。
…勝手に寝てたら怒られるかな。

数秒間立ち尽くしていたら、肩をポンと叩かれた。
振り向くと、彼。

驚いたわたしの顔にはでかでかと「何で?」と書いてあったんだろう。
彼は今の状況に至るまでを簡単に話してくれた。

「授業始まる前にね、君が保健室に行ったこと、先生に言った子がいてさ」

うん。ここまでは想定内。

「そしたらツッキーが俺にね、今日だけ保健委員替われよって。ツッキー保健委員だったんだよね。俺、忘れてた」

…読めない。月島くんの行動も、山口くんの話の展開も。

「でね、ツッキーが先生に、あの子フラフラしてて危なかったです、保健委員が付き添った方がいいと思います、って」

…うん。

「月島じゃないっけ、って言ってた奴もいたけど、
ツッキーが『今日だけ山口に替わってもらった』ってさ。
あ、ツッキーが君を嫌いだからとかではないよ、多分。だから安心してね」

…やっと頭の中が整理された。
月島くんは昨日の様子から、わたしの想いに感づいたんだろう。
頭がいい人は、こういったところの感覚も鋭いんだな。
ろくに会話もしないわたしにナゼそこまでしてくれたのかはわからないけれど…
ありがとうツッキーと、山口くんの真似をしてこっそり頭の中で呟いてみた。

「先生いないんだね、そしたら俺、呼んで…」

出ていこうとする制服の裾をとっさに掴んだ。
不思議そうな顔で振り向くあたり、自分が保健委員を押し付けられた理由をわかっていないんだろう。

ひとつだけ、聞いてみることにした。

「山口くんは、今日誰かに告白された?」

わたしの質問にキョトン顔。

「ううん、まさか。そんなのないよ」

ふにゃっと笑い、顔の横でぶんぶんと手を振って否定した。

「女の子から告白されるなんて、ツッキーじゃないんだから。男の俺から見ても、ツッキーはカッコイイもんね」

いつ見ても、月島くんの話をしている時の彼は
自分のことのようにうれしそうに、得意げだ。

「そんなことないよ」

大人気の親友を「そんなことない」の一言で片付けたからか、
彼の表情がほんの少し曇った。

違うよ。月島くんの良さを否定するわけじゃなくて、君のことを…
それを早く伝えたい。

「みんなが月島くんばかり見ているとは限らないよ」
「そう…なんだ?まあサッカー部とかにもカッコイイ奴いるしね」

絶対に気づいていない彼に、今こそ思い知らせるため
失礼だと思いつつ人差し指を彼にまっすぐ向けた。

「わたしは、ずっと、山口くんを見てたよ」

好き、というのは照れくさいから少しだけ遠まわしに、
でも多分届くだろうと信じて伸ばした人差し指を見つめる彼。
その頬がだんだん紅潮していくのを、見つめるわたし。


ガラッという音と共に養護教諭が入ってきた。

「あら、具合悪いの?ふたりとも?」

真っ赤な顔の彼と、少しだけ赤みを取り戻したわたし、
どちらも先生の目には病人に映ったらしい。

「お、俺じゃないです!…それじゃお大事にね!」

顔色がよくなるまで寝てなさいと言われ、ベッドに横たわる。
教室に戻ったら、今日中に、さっきの言葉が彼に有効なうちに告白したい。
昨日のあの子がその間に告白してたって構わない。
わたしもさっき、軽い先制攻撃しておいたから。
ゆっくり目を閉じて、戦いに備えるとしよう。


「おかえり山口。彼女、大丈夫そうだった?」
「…あ、うん!」
「…顔赤いけど。なんかあったんデショ、あの子と」
「えっ!?ツッキー…?」
「僕が何も知らないとでも思った?」
「(…やっぱりツッキーはすごいな!)」
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