twitterであげていたおはなし。

□今、何してる?
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電話ってすごくハードル高い。

特別な相手とするものって感じがするし、
いつ読んでくれてもいいメールと違って、その瞬間から相手を拘束することになる。
本当にここだっていう時にしか掛けちゃいけないような気がする。

そんなわけで、つきあって3ヶ月が経とうとしているのに
彼に一度も電話を掛けたことはなかった。


学校ではほとんど話せない。
照れ屋な彼はみんなに冷やかされるのを嫌がるから、「同級生の一人」として接している。
特に部活仲間や後輩にバレるのを一番気にしているので、
一緒に帰ることもできないし、試合の応援にも一度も行っていない。

ただ、その分忙しい合間にメールは意外とマメに返してくれる。
絵文字とかはないモノクロのそっけない文章だけど、それも彼らしいなと思う。
彼からもらう言葉なら、「今日、クソあちーな」でさえわたしを笑顔にする。
それぐらい大好き。


そんなわたしが、今、電話を掛けようとしている。
今日、彼氏持ちの友達と話していたら、彼女たちは毎日電話をしていると言ったのだ。
おはようとおやすみは、言いたいよねって。
つきあってるなら、声聞きたいじゃん、って。

わたしたちはおかしいのかな?
そしてわたしは、自分で考えるよりも彼に好いてもらっていないのかな?

もくもくと心を覆った不安は、ひとりでは取り除けない。
ワガママかもしれないけど、彼の力を貸してほしかった。


彼の電話番号が表示された画面を穴のあくほど見つめてから、深呼吸。
勇気を人差し指に乗せ、”発信”をタップした。
軽やかな呼び出し音が続くけど、それとは逆にどんどん重みを増すわたしの心臓。

何コールかすると、呼び出し音がぷつりと切れて
待ち望んでいた彼の声が耳に飛び込んできた。

「…おう。どうした」

その口調から色々と推察する。
寝ようとしてたのを邪魔してしまっていないか。
突然の電話でびっくりさせてしまったか。
でもわたしがそんなことを考えている間に、時間は過ぎてゆく。

「おい、聞こえてるか?」

何か、言わなきゃ。
せっかく出した勇気を無駄にしたくない。
決死の思いで口にしたのは、腰が抜けるほどフツーの問いかけ。

「…今、何してる?」

とりあえず、寝ようとしてた、勉強してたと言われたら
ごめんといってすぐに電話を切ろうと思った。
そしたら、あの照れ屋でぶっきらぼうな彼とは思えない
なんともロマンチックな答えが返ってきた。

「今、か?……お前のこと考えてる。…今に限ったことじゃねえけど」

胸がいっぱいで、気の利いた返事も思いつかなくて黙りこくると
漂った甘い空気をガシガシともみ消すように早口で告げる。

「わりぃ。今の、ナシな。
あ、ナシって言っても、嘘って意味じゃねえぞ。
って何言ってんだ俺は…」

電話の向こう、きっと真っ赤な顔で頭を掻いてる姿が目に浮かぶ。
ねえ、気づいてるかな。
わたしも電話のこっち側で、ニヤニヤが止まらなくて、でもうれしくて泣きそうで、めちゃくちゃ変な顔になっちゃってる。


これからはたまに、電話するね。
でも、今みたいに素敵なこと、言おうとしなくていいから。
今の言葉は心の中にしまっておいて、不安になったら思い出すよ。

ふたりとも同じ気持ちだってこと。

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