twitterであげていたおはなし。

□マネに恋する赤葦と、それを応援する木兎さんのお話。
2ページ/2ページ

このままじゃチームがヤバイかも!
俺は赤葦と話してみることにした。
練習が終わってすぐ、大声で呼び止める。

「あかーし!」
「…なんですか」

なんなんだ、この落ち着きは。
いつも思うけど、これじゃ俺が後輩みたいだな。
いや、ここはバシっと先輩らしいとこ、見せるぞ。

「お前、調子悪いのか?なんかあったら俺に言えよ!主将だし!先輩だし!」

決まったぜ。

と思ったら赤葦は俺のTシャツを引っ張り、体育館の舞台袖まで連れて行った。
パワーもっとつけたいとこぼしていた割に、結構な力。
鍛えてんのかな。さすが赤葦!

舞台袖で、誰もこっちに来ないことを確認した赤葦は、
盛大にため息をついて俺をジロリと睨んだ。

「…あの。大勢の前であんな風に言うのやめてもらえませんか。
その場で言えることと言えないこと、あるんですから」
「あー…悪いな!ゴメン!」

また怒られちゃったな。俺もまだまだだ。
心の中でちょっとだけ反省。

「木兎さんに、話すことになるなんて思ってなかったんですけど…」

そう言いながら赤葦は、心の中にためこんでいた気持ちを全部話してくれた。
同級生のマネちゃんのことが好きなんだって。
練習中、彼女を目で追ってしまって、考えてしまっているって。
大人びてるなぁなんて思ってた赤葦にも、こんな一面があったんだとびっくりした。

「マネージャーは、部員全員のものだと思ってます。
女性に対して『モノ』っていうのは失礼かもしれませんが。
俺のものにしたいですよ。できるなら。でも、できません。
万が一皆さんに知られたとして、部の雰囲気が悪くなるのも、嫌です」

もちろんツーアタックとかサービスエースだってあるから
セッターである赤葦にも得点を稼げるチャンスはある。
でも、セッターはスパイカーのためにトスをあげるのが一番基本で重要な役目。
チームが勝つためには。
こいつは自分をいくらでも犠牲にして、チームを、まわりのことを考えられる奴なんだ。
…さすが副主将だな。

「好きなら、告白しちゃえばいいじゃんかよ。他の奴に取られる前にさ」
「…フラれたら、どうするんですか。さっきも言いましたけど、
プレーや部の雰囲気に支障ないかって言われたら
ないと断言できる余裕は、俺にはないです。
木兎さんがしょぼくれモードになってもカバーできないかもしれないし、
むしろ俺がしょぼくれモードになるかもしれませんよ」
「そ…それは困るな!」

意外と、臆病というか自信なさげなところもあるんだな。
そういう赤葦も人間らしくて嫌いじゃないけど、でも、俺はいつもの赤葦がいいな。

「赤葦」
「…なんでしょう」
「フラれたら、なんて弱気になるなよ。
試合だって、勝ちに行こうと思うから勝てるんじゃねーの」
「…」
「まあ、ダメだったとしたらパーっと忘れるために俺にトスあげてくれよ。
バンバン決めて、強くなって、そしたらあの子が赤葦に振り向いてくれるってのも考えられると思うぞ!」
「木兎さん、ポジティブですね。…じゃあなんでたまにしょぼくれモードになるのかってことになりますけども」
「うっ…痛いとこつくな…」

会話が途切れ、しばらくそっと目を閉じていた赤葦が、目を見開く。
立ち上がって、座ったままの俺に頭を下げた。

「いってきます。ダメだったらこの後、自主練つきあってくれませんか」

舞台袖から体育館に戻ろうとしている後輩の背中に一言。

「もちろんだぜ!」

いつも最高のトス、もらってるからな。
俺、赤葦にいいトスあげられたかな。
しっかり、決めてこいよ!

さて、俺も戻って、先に自主練しようっと。



…赤葦です。
一番想定してなかった人に、話してしまいました。
こういう色恋に弱そうと思っていたのに、最後には背中を押されるなんて。
やっぱり、木兎さんは主将でエースですね。
あんなふうに大きな背中にはなれないかもしれないけど、俺なりに、頑張ってみます。
まずは今、彼女に想いを伝えたい。

練習で使ったビブスを集め、一人で洗濯機へ向かおうとしていた彼女に声をかけました。

「俺、持つから」
「練習で疲れている選手に、そんなことやらせられないよ」
「…いいから」

少し強引にカゴを奪い取って、並んで歩き始めた。
今ので、怖いとか思われてないといいんですが。

二人きりになれたはいいんですが、いざ言おうと思うと
なかなか口が動いてくれないものですね。
このままだと洗濯機にたどり着いて終わってしまいそうなので、思い切って立ち止まってみました。

「…どうしたの?」

俺の顔を覗き込む彼女、すごく心配そうだ。
でも、あなたにさせたいのはこんな顔じゃない。
俺たちが勝った時に見せてくれるような笑顔が見たい。

「突然で悪いんだけど。俺、君のことがずっと好きだった」

回りくどいことは言いません。
木兎さん。
クロス打ち止められてからストレート練習して、試合でバッチリ決めましたよね。
だから俺も、ストレートで攻めてみましたよ。

「…それ、本当?」

カラーの花の大きな葉に宿った、夜露の玉のような涙を浮かべたあなたを
返事を聞く前に抱きしめたくなりました。
グッとこらえてその透き通るような声に、耳を傾けます。

「わたしも、すきだよ。赤葦くんのこと」

そう言うと彼女はカゴの片方の持ち手を掴みました。
二人でひとつのカゴを運ぶのは、なんだか小さい兄弟のおつかいみたいですね。

「わたし、赤葦くんばっかり見てたよ。もうバレてたかもって思ってた」
「どうして?全然気付かなかった」
「赤葦くんが次に何をしたら喜んでくれるのかってこと考えてたら、すごいおせっかいみたいなこと、色々しちゃってたから…」

そういうことでしたか。
あの気遣いは俺をたくさん見ていてくれたから、なんですね。
見られていたかと思うと気恥ずかしいですが、見られているとわかれば
今度からは格好悪いところは、見せられません。


さて。あの手のかかるけど頼もしい大エースに、今日は自主練はやめて帰りますって報告しにいかないといけませんね。
明日から改めて頑張りますから、今日だけは、勇気を出して手に入れた幸せを
噛みしめながら帰ってもいいですよね。


長々と俺の話につきあって見守ってくださった皆さん。
どうもありがとうございました。
これからも梟谷バレー部を、どうぞよろしくお願いします。
赤葦京治でした。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ