twitterであげていたおはなし。

□君だけの花になりたくて
2ページ/2ページ

好きと気づいてから、とにかく積極的に動いた。
毎日挨拶するし、話しかけるし、メールもする。
「メールは苦手だし、絵文字は使わない」なんて言いつつも、
毎日必ず一回は返してくれる優しさがうれしかった。

かっこいい、魅力的だと思っていたのはわたしだけなのか、
基本的に無口な彼には誰も近寄る気配がない。
陰で騒がれているわけでもない。
むしろ、月島くんに用事があるけど、代わりに伝えてくれないかとまで言われた。

その結果、クラスだけでなく近隣のクラスからも
「あの無愛想な月島に一番近い女子」と言われるようになった。
好きと口に出さなくても、周りはもうわたしの気持ちに気付いていた。
おそらく、彼も。


そして今朝、教室に彼を呼び出して告白した。
彼は特に驚いた表情を見せなかったから、やっぱりバレバレだったみたい。
伝え終えた満足感でいっぱいだった。

その日の席替えで、運命のイタズラか彼と前後の席になった。
わたしが告白したことは、なぜか周知の事実。
ひゅーひゅーと冷やかされ、イラっとした表情の彼を見て胸が痛む。
その日は初めて、朝以外口をきかなかった。
広い背中を見つめながら受けた授業は、うれしいはずなのにほろ苦く過ぎていった。


今日はテスト前だから、部活は全部、活動停止になっている。
ホームルームが終わると、いつものように山口くんが弾けるような声で呼ぶ。

「ツッキー、帰ろう!」

ご主人を待つ忠犬ハチ公のように、鞄を肩に掛け月島くんの横に立っている。

「…ごめん山口。僕ちょっと用事あるから」

笑顔を崩さず、そっか、じゃあまた明日!と手を振り去っていく爽やかさ。
山口くんは、月島くんの狭い庭にしっかりと根付き葉をつけている木のよう。

なんてことを考えてしばらくぼーっとしていたら、視線を感じた。

「…今日、この後時間ある?話したいんだけど」

前の席から振り向き、照れもせず、無表情で誘う彼。
ええ。わかっていますとも。
今朝のこと、ですよね。
表情からしてあまりいい結果じゃなさそうだから気が重いけど、
神様がわたしに与えてくれた幸せな時間に感謝するとしよう。



廊下、昇降口と進んでも一言も発しない彼。
通学路に出たから、とりあえず黙って後ろをついていく。
家の方向は途中まで一緒だから、この時間だけは…
周りから恋人同士みたいに思われていますように、なんて、ワガママだけれども。

「でさ、僕の何がいいの」

突きつけられた質問に、とっさに答えが出なかった。

「自分で言うのもなんだけど、僕は基本的にあまり話さないし周りからきっと冷たい人間だって思われてるよね。
なんでここまで、構ってくるの」

決して見た目は悪くない、むしろ整っている方だ。
頭だって良いし、身長だって高い。
無愛想と言われるけれど、話せばちゃんと応えてくれる。
それなのに彼は、自分自身を好ましく思っていないのだ。
もったいないなあ。

「好きだから好きとしかいいようがないよ。
知らないうちにそうなってたから。
筋道立てて、ここがいいです、って言える余裕なんてないくらい…好きなんだよ」

感情論で返したわたしを、フフンと鼻で笑った。

「…バッカみたい。納得できないね」
「じゃあ、納得できるまで好きでいるよ。
一生かけて、口説き落としてあげるから。覚悟してね」

迷惑がられても食らいついてやる。
その意思をあらわにしたわたしを、思惑通りといわんばかりのドヤ顔で見つめる彼。

「…そういうの、君、いかにも言いそうって思った。
単純でまっすぐで、気持ちでなんとかなるって思ってるデショ」

なんとかなれば、苦労はしない。
この牙城を気持ちで崩すのは、相当時間がかかるだろう。
「一生」なんて言ってしまったけれど、途中で心が折れることもあるかも…
いかん。弱気になるな。


「一生なんて大げさだね」
「そんなことない。本気で好きだし!」
「…そんなにかからないかもしれないよ」
「え?」

そんなにはかからない、ってどういうことだ?
彼はわたしの脳内の糸をぐじゃぐじゃに絡ませた。

「一生かかってお互いヨボヨボになるまで追いかけられても困る。
だったら今のうちに手を打っといたほうがいいかなって。…いいよ、僕の負け」
「…へ?」
「だから、彼女になればいいよって言ってんの。わかんない?」

言い方はキツイけど、これは。
わたしを受け入れてくれたってことだよね。
まさかの大逆転劇に、足が震えた。

「どうして今、OKする気になったの?」
「彼女になれば、うるさいのが少しは落ち着いてくれるかなと思って」
「いいじゃん、いっぱい話そうよ」
「…メリハリって言葉知ってる?ずーっとしゃべられてるより、僕は」

そう言うとポケットにつっこんでいた両手を出して
わたしの背中に腕をまわした。
彼に抱きしめられているという事実に、何も言葉が出ない代わりに
胸いっぱいにあふれた気持ちが目頭を熱くする。

「…こうやって黙ってる君も嫌いじゃないから、言ってるんだけど」


君の庭で花を咲かせられる日は、そう遠くない。
水遣りを忘れられたって生き延びるつもりだけど、
たまにでいいから、今日みたいに心を潤してくれないかな。
そしたら、きっと、きれいに咲ける。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ