twitterであげていたおはなし。

□マネに恋する影山のお話。
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くっそ、見てるだけでイライラする…
手がうずうずすんのは、ボールに触りたいからじゃない。
あいつが…他の奴と笑って話してるのが耐えらんなくて、
きやすく触られてんのを、今すぐにでも止めに入りたいからだ。


あいつは俺と真逆の人間だ。
いっつも笑ってて、誰にでも気さくに話しかけてすぐに仲良くなる。
認めたくないけど、日向に近いんじゃねえかな。
まさにその日向とよく話すし、ふたりでじゃれあってるところは双子の兄妹みたいだ。
…あくまでもキョーダイ、だ。恋人同士みたいとは言わない、絶対に。

クソむかつくことに、いけ好かない月島とも親しげだ。
「君は小さくて大変ダヨネ」なんて言いながら、月島はあいつの荷物を持ってやったりしてた。
あんなん、俺でも運べるし。
決して、見捨てたとかじゃない。
本当は誰よりも先に気づいてたのに、声をかけらんなかったんだ。

うちの学校だけでなく、GWに試合に来た音駒高校に会った時も、
向こうのプリン頭のセッターとなんなく話していた。
…俺は避けられたのに。両方の意味で悔しかった。

そういう積み重ねが今、ずしんとダメージになっている。
大事な試合も控えているのに、自分の心も体も思うように動かない。
今日も日向の顔面にトス、何本もあげちまった。
ま、俺が不調でなくても日向はあんな感じだから大して気にしてねえと思うけど。



「影山くん」

こんな声で名前を呼ぶのはあいつしかいない。
自主練が始まり、まだまだ活気づいている体育館。
窓の格子にかけてあったタオルを手にとった瞬間だった。

「おつかれさま」

誰にでも平等に向けられる笑顔と言葉だ。
俺は、ウス、と簡単に返事をして汗を拭い始めた。

「ねえ、なんか今日、調子悪くない?」
「…日向の顔面にトス食らわせたからか?」
「え?まぁ…それもあるけど、なんか様子がおかしいかな、なんて」

マネージャーとして当然のことなんだろうけど
俺を気にとめてくれたってだけで物凄くうれしかった。
なのに、素直にお礼なんて言えないんだ、俺は。


「俺は、笑ったり、笑わせたりできねえし」

何を言い出すんだ俺は。自制が効かない。

「みんなから好かれたり、信頼されてるわけでもない」

わざわざ幻滅されるようなこと言わなくてもいいのに。
前に先輩たちに言われた『余計な一言言うなよ』って俺のこういうところなのか?

「菅原さんみたいなセッターには、なれない」


心の奥底にあった先輩への憧れ。
菅原さんは、俺のことを体も大きくて実力が上、と言ってくれるけど
俺はそんなものより、菅原さんが持っているものの方が羨ましかった。

仲間への気配り。
仲間からの信頼。
場を和ます笑顔。

どんなにバレーをがんばったからと言って簡単には手に入らない。
人に愛されて頼られて、惜しみなく爽やかな笑顔を見せられる菅原さん。

それに、前に聞いてしまったから。
あいつが友達に部のことを聞かれている場面に遭遇した時
「菅原さんって本当にいい人なんだよ。大好きなんだ」って。

その思いから出た、さっきの言葉。



目の前の彼女は俺の言葉を受け、そっと口を開いた。

「別に、いいんじゃないの」

あっけなく突き放されたのかと思った。
どうでもいいってことなのか?なんて思ってたら。

「わたし、すきだよ」

そして少し遅れて、影山くんのトス、とつけ加えた。
トスのことか。焦った。

転がってきたボールを拾いコートに返しながら、
おそらく俺だけに聞こえるボリュームで、淡々と話す彼女。

「練習、誰にも負けないぐらい頑張ってると思うし。
連携のために、先輩に打ちやすさを確認しようと話しかけるようになったじゃない?」

強くなりたいから練習は人一倍やってるつもりだ。
連携のことも、菅原さんと話すようになってから意識するようになった。
…こいつは、そういうのも見てたんだな。

「それって進歩だよ。最初は、威圧感があったんだ、正直。
でもね、少しずつみんなと合わせていけてるじゃない。
影山くんはすごいから、頑張れば何でも乗り越えられるんだと思うよ」

…やべ。泣きそうになったから、汗を拭くふりをしてタオルに顔をうずめた。

「菅原さんも確かにすごいけど、菅原さんみたいになろうとしなくて、いいんじゃない。
影山くんは、影山くんなんだし。
日向の掌に合わせる、ズバってやつ、わたし見ててスカっとするんだ。
誰にも真似できないよ、あんなの」

荒れ果てた心に、十分すぎるくらい優しい雨が降った。
ひび割れはすっと消えていき、やわらかな土になろうとしている。
これだけたくさんの言葉をもらえて、頑張れない奴なんているもんか。


タオルをかけ直し、ボールを手に取った。
菅原さんになろうとしなくても、こいつを手に入れる方法は他にもきっとあるはずだ。
そのためには、他の奴が目に入らないくらい、
強くてかっこいいところをたくさん見せればいい。

キュッとシューズを鳴らした後、コートに戻る前に振り向いた。
誰も見てないし聞いてないこの時だからこそ、言ってやる。

「…その。さっきのすきっていうの、トスだけの話にさせねえから」

少し遠まわしだったけど、なんとなくでいい。伝われ。
そう思ってまたコートに向き直るとすぐに返事が返ってきた。

「…トスを打ってる『人』も、嫌いじゃないよ」

いいんだ、今はこれで。

俺はコートの中で誰よりもボールに触れ、いつかてっぺんに立つ。
その時に一番にお前に向かって笑いかけるから、笑顔がへったくそでも笑うなよ。

そんで、俺のトスも、俺のことも、すきって言わせてやる。

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