twitterであげていたおはなし。

□何も知らない酸素泥棒
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最近の彼はやけに積極的だ。

教室の隅、みんなの目を盗んで。
廊下で二人並んで窓の外を眺めている時。
体育館の陰、部活に行く前。

何も言わず唐突に唇を求めてくる。
一日何回したか、数えるのが恥ずかしいくらい。

そりゃあ、高校3年生ですから。
つきあって3ヶ月も経ちますから。
何度となくそういうことはしてきた。
ぶっきらぼうで、バレーのことばかり考えてるあいつだけど
普通の男の子らしい一面はしっかりとある。

しかし、目に余るその行動にちょっとずつ疑念を抱き始めたわたし。
学校と体育館と家の往復だけで、デートはろくにできない。
食欲と睡眠欲以外の欲が、満たされていないってことなのかな。
だから、こういう形でわたしにぶつけて処理するしかないのかもしれない。
数多のキスの理由を、そんな風に理解していた。

きっと、君は知らないんだね。
わたしがどんな想いで君のくちびるを受け止めているのか。
欲を発散させるかのように貪りついてくる君は
わたしのハートも口内の酸素も全部残らず奪っていく。
恋の息苦しさとはこういうことなのかな、ってとろけそうな頭の中いつも考えてた。


そして、今。
教室に誰もいなくなるのを見計らって、彼が壁際にわたしを追いつめる。
だんだんと迫ってくる顔。
いつも通りの展開なのに、気づいたら彼の胸を、とん、と軽く制していた。
彼が、戸惑いを含んだ悲しげな表情を見せた。

「ご、ごめ…あの、イヤとかじゃなくてね」

そう弁解するも、全部聞き終わる前に彼はスポーツバッグを揺らし出ていった。
傷つけてしまった彼と、明日笑い合える自信はない。
仕方ないので、部活が終わるまで待つことにした。
もしかしたら遅く終わる日だったかもしれないけど、それでもいい。
ちゃんと話ができるなら、何時間でも待つ覚悟はできてる。
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