twitterであげていたおはなし。

□大地さんを励ますクラスメイトのお話。
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校庭の桜はもうほとんど散っている4月中旬。
2時間目の休み時間。

「なあ、聞いてよ」

わたしの後ろの席には、彼と同じバレー部の菅原がいる。
学年に3人しかいないのに、奇跡の「男バレサンドイッチ」だとみんなに言われた。
それにも関わらず、なぜかいつもわたしを話し相手に選ぶ彼。
さっぱりと切り揃えられた短髪、聡明な瞳。
絵に描いたような模範的な生徒だと思う。
なんて、言葉にしてみるとすごく美しいのだけど、

「部に入った1年がさ、個性的というか、問題児というか…」

はあとため息をもらして眉を寄せている。
人数がそんなに多くないと聞いているが、まとめ役の主将は大変なんだろうな。

「大きな問題にはなってないけど、この調子だと先が思いやられる…」

副主将の菅原と話してる時とは、なんか違う。
もっと毅然としている感じだ。
主将としてこう思うとか、頑張らないとな、ってキリッとしてる。
たまにすこーしだけ、今みたいな弱気がのぞくこともあるけれど、
菅原の「大丈夫だべ」の一言に、そうだよな、とすぐ元に戻る。

菅原は、他の友人と話していて澤村とわたしの会話には気づいていない。
副主将相手に、落ち込んだり悩んでる様子はあまり見せたくないのかもしれないな。
主将のプライド、なのかな。

「あれ、確かこの前も、先月部活停止になった子がいるって言ってなかった?
教頭を突き飛ばしたんでしょ?やるねー」
「それは2年ね。そう、2年は2年で色々と…
やるねー、じゃないよ、お前。俺、胃がやられそうなんだけど」

そう言うとおなかを押さえておどけてみせてくる。
確かに色々と起こる部なのかもしれないけど、彼の言葉の端々からは
部、そしてバレーへの愛情が感じられるから、話を聞くのは楽しかった。

「澤村、お昼は胃に優しいもの食べなよ」
「そうしとく。…聞いてくれてありがとな」

くるりと背を向け、授業を待つ後ろ姿。
前の席に座っている広い背中は、たくさんのものを背負っている。


冗談で、例えで言っただけかもしれないけど。
次の休み時間に自販機に向かった。
光るボタンに指を伸ばし、ぐっと力を込める。
取り出し口からお目当てのものを回収し、急いで教室に戻った。

彼の机の横に立つと、さっき手に入れてきたぐんぐんヨーグルを机の上にとん、と置く。

「胃痛に悩む主将くんに、差し入れです」

乳製品は胃に優しいからね、と一言添えて。
そして、すぐ後ろの自分の席に戻った。

ちょっとおせっかいだったかもしれないけど…
頑張る君を応援してるよ、っていう気持ち。
伝わると、いいな。

そんなふうに思ってたら、早速ちゅーちゅーと吸い込む音が耳に入ってきた。
数秒後に聞こえたバコっという音は、飲み尽くしたしるし。

さっきの休み時間と同じように振り返った彼。

「ありがとな。なんか、気い遣わせて悪いな…」
「何言ってんの。普段あれだけ周りに気を遣ってるくせに。
疲れたーとか、もうやだー、とか言っていいんだよ。
気を遣われる側にまわってみてもいいんじゃないの」

…少なくともわたしの前ぐらいは、という言葉は飲み込んだ。

「うまいことも言えないし、バレーのこともわからないけど…話を聞くことならできるからさ。
よかったら存分に使ってやってくださいよ」

君の何かしらの拠り所になれたらいいな、なんて。
やんわりと、これからも接点が消えませんようにと願いを込め、笑顔と一緒に投げかけた。

彼からのお返しは、そんな願いを一気にかっさらって有頂天にさせてくれるような一言。

「…まいったな。俺、いつもお前に救われてるよ。
頼りないところ見せられるの、お前しかいないと思ってるから。…よろしく」


本鈴が鳴り、先生が教室に入ってきた。
これが終われば昼休み。
板書を写すふりをして見つめた目の前の背中は、
わたしが思ってるよりも少し小さかったみたい。

その背中を思い切り、わたしにもたれてくれる日が来ますように。

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