twitterであげていたおはなし。

□龍と幼なじみのお話。
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席に着いてしばらくすると、机の横にぬっと黒い影を感じる。

「悪い、ちょっとここ借りていいか」

わたしの前の席の子に声をかけ、椅子に座った龍。
でも、何も話しかけてこない。
口を真一文字に結んで思いつめた横顔。

もう、昼休み終わっちゃうよ。

…わたしは、期待している。
気にかけていてほしかった。

「龍、どうしたの?」

さっきのヤツは何だったんだ、って一言を誘導したくて、自分から聞いた。
横顔がゆっくりとこちらを向く。
閉じていた唇がそっと開いた。

「なぁ、さっきのって……」

声を遮るチャイムの音。
昼休み、終わっちゃった。

「いや、何でもない」

ゴトリと音をさせ立ち上がると自分の席に戻っていってしまった。
前の席と同じで、ぽっかりと空いたわたしの心。

その「何でもない」は昔からの癖だよね?
何か、あるんだよね?
その「何か」を教えてほしい。
それが、わたしが期待している言葉だったらいいのに。


ホームルームが終わってすぐ、体育館に向かう龍。
追いかけようとしたら友達に捕まってしまった。
今すぐに「何でもいい」の真意を確認したかったのに…
後ろ髪をひかれる思いで、教室の窓越しに、廊下を歩く龍を見ていた。


モヤモヤした気持ちを抱えて帰る。
ごはんも食べ、お風呂に入って、ベッドに倒れこんだ。

龍、今頃何してるのかな。
部活帰りかな?

友達に告白されたことで、一層自分の龍への想いが強まっていることに気づく。
こんなにもわたしの頭の中を占めているのに、
この恋は、もしかしたら実らないのかもしれない…と思うと一気にどよんとする脳内。

コン。

わたしの部屋は1階にある。
窓に何か当たった音。
風で飛んできたものが当たったのかな、と無視した。

コンコン。

今度は2回、さっきより強めの音。
気のせいじゃないよね…?

恐る恐る窓に近づきカーテンを開けると、
さっきまで脳内を占領していた坊主頭の彼が窓の外に立っていた。
制服姿だから、部活帰りなんだろう。

急いで窓を開け、夜なので近所迷惑にならないように小さい声で問う。

「どうしたの、急に」

重い口を開き、ボソッとつぶやく。

「…昼休みのアレ、何だったんだよ」

気にしてくれてたんだ。うれしい。
でも、これはあくまでも、本当の気持ちを確かめるための始まり。

「告白された」
「…マジか」

純粋に驚いたように見える表情。
ただの驚きなのか、それとも他の感情を秘めているのかはまだわからない。
ここで、最大の賭けに出る。

「前から仲良かったし、つきあおうと思うんだよね」

さらっと言えた。
とても自然な演技だったと自分に拍手を送りたい。

「いいんじゃねえの、お前があいつを好きなら」

やっぱり、そう来るんだ。
そう言うと思ってたよ。
ドラマやマンガでもよくある展開。
多分龍は、恋愛系のドラマやマンガなんて読まないから
わたしの予想通りに進んでることさえ、知らないんだろうな…

「本当の本当に、そう思ってる?」

まっすぐに見つめて、目は絶対にそらさない。
気づいて。
今の言葉のその先にある、わたしの本当の気持ちを。

「それは……」
「それは?何?」

言葉を詰まらせ、自分でも沈黙に耐え切れなくなったみたい。

「何でもねえよ!じゃあな!」

ぶっきらぼうに言い放ち去っていく。
その後ろ姿に、トドメをさした。

「わたしがすきなのは、龍なんだけどな。
何でもないって言われると気になるんだけど、教えてもらえないの?」

龍の足が止まった。
少し離れたところで振り返ると、紅潮させた頬のまま叫ぶ。

「どんだけ長いつきあいだと思ってんだ。察してくれてもいいじゃねえか」

ずんずん近づいてきたと思ったら、わたしの頭に手を伸ばす。
窓枠に手をかけ、少し背伸びをして、ふんわりと頬に唇を押し付けてきた。

「…渡したくないに決まってる。これが俺の気持ちだ。満足か?」

はい。大満足です。
と、口にしない代わりに思い切り笑ってみせる。
できればほっぺじゃなくて、唇にして欲しかったけど…
まあそれはこれからのお楽しみ、ということで。

「龍。すき。おやすみなさい」
「おう。…おやすみ」

背を向けて歩き出した彼は、ひらひらと手を振ってくれた。
曲がり角で見えなくなる。
窓とカーテンを閉めて、早いけどもう寝ようかなと思った。

明日早起きして、朝練に向かう龍を迎えに行ったらどうだろう。
今までずっと近くにいたし、四六時中一緒じゃなくてもいいじゃねえか、なんて言われちゃうかな。
それでも、やっと堂々と手を繋いで歩けるうれしさに、めいっぱいニヤニヤしたい。

「何でそんなニヤついてんだよ」って言うでしょ。
そしたら君の口癖でそっくりそのままお返ししてあげる。

その真意は、自分で確かめてくれるよね。
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