twitterであげていたおはなし。

□おやすみ、と言いたくて
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夢みたい。
あんなにも焦がれた背中が目の前を歩いてる。
シンと静まり返った校舎の中、ふたつの足音だけが響く。

靴を履き替え昇降口を出た。
黒く塗りつぶされた空には星が散らされている。
その空の下、一緒に立っている相手が彼であること。
長らく見つめ続けた横顔が今、手の届く距離にあること。

バチがあたるんじゃないかってくらい、幸せだ。
いいや、バチがあたったって構わないとさえ思ってる。

視線の先にある校門のところに、薄茶の明るい髪が見える。
門に寄りかかって待っている夜久くんの姿。
目の前に着くと、待ちくたびれた、というような顔を見せた。

「遅い!」
「電気切れてて真っ暗で、机ん中見づらかったんだよ。
お前、一緒だったからわかるよな?」

急に話を振られ、勢いよくぶんぶんと頷いた。

「…暗い教室だろ、そんで人をさんざ待たせたかと思ったら
女の子と二人きりで戻ってくる、まさかお前…」
「オイ、そういう目で俺を見るな!何もねえよ」
「…コイツに変なことされなかった?大丈夫?」
「俺を何だと思ってんだよ」
「女の子にいかがわしいことをしかねない、歩く18禁」
「ひでえ言われようだな」

彼とふたりで過ごした教室。
彼と友達を交えて談笑した今の時間。
どちらもわずかだけど、明日の活力になるには十分だ。

「じゃあ、また明日ね」
「「おう」」

彼らを残し、自分の家に向け歩みを進めた。
まだ、この背中の先に彼がいるんだと思うと…もったいなくて歩きたくないけど。
なんて思っていたら、背後から

「おやすみ」

振り返ったらポケットに手を突っ込み、ニッと笑った彼がこちらを見ていた。
普段何気なく、家族や友達に使う言葉なのに、
この瞬間、彼がわたしに向けたかと思うとそれだけで特別だ。

「お、おやすみ…」

消え入りそうな声でしか言えなかったけど。
聞こえたよのサインかな。
彼がポケットから抜いた手を挙げ、大きく振ってくれた。

いつかは。
もっと近くで。もっとたくさん。
あわよくば…彼があたたかな布団にくるまれ瞼を閉じる直前に。

おやすみ、って言えますように。
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