twitterであげていたおはなし。

□リエーフの臨時の先生になるお話。
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廊下にできた人の山。
高校に入って最初の、中間試験の結果が貼り出されている。

友達と見に行くけど、たくさんの頭に遮られて全部は見えない。
背伸びをしてようやく確認できたのは科目ごとの順位。
英語の1位の欄に見つけた、自分の名前。

将来は翻訳の仕事に就きたい、と思って中学校の時から英語だけは頑張っていた。
それだけに、1位を取れたというのは大きな自信になってわたしに笑顔をもたらした。

「あんたすごいじゃん!英語1位だよ!」

友達に肩をバンバンと叩かれ、照れくさそうにしていたら隣に感じた気配。
ゆっくりと横を向くと、そこには高い高い壁。…のような男の子が立っていた。

「ゴメン、立ち聞きしちゃった。君、英語得意なんだ?」

緑色の目をした彼は淀みない日本語で話しかけてきた。
外国人?ハーフ?っぽいけど、上手に話す。
見上げていたら首が痛くなるほど、背が高い。
なんて思っていたら、次の瞬間彼が深々と頭を下げてきたもんだから驚いた。

「お願いします!先生に、なってください!」

衆人環視の中された、意味のわからないお願いに戸惑った。
でもなかなか頭を上げようとしない彼に、何か事情があるのかなと思った。
人だかりから離れ、廊下の端まで彼の手を引いていく。


話を聞くと、彼は今回の英語で赤点を取ってしまったとのこと。
1週間後の追試に合格しないと、一定期間部活への参加が禁止になる。
彼はそう言って顔を曇らせた。

「俺、高校入ってからバレーボール始めたばっかりで」

なるほど。その身長なら、と納得してしまった。

「うちのチーム強いんだ。みんなすごく上手くて。
俺、エースになりたいけど…始めたてで基礎の部分が追いついてない。
これ以上差が広がったら悔しいから、追試は絶対に受かりたい!」


彼は追試までの1週間、英語を教えて欲しいと改めて頭を下げた。
幸いわたしは帰宅部だし、委員会も忙しくない。
都合が合えばという条件のもと、休み時間や昼休み、部活前後の時間に
彼に英語を教えることとなった。


翌日の昼休み。
クリームパンをぱくついているわたしのところへ颯爽と姿を現した彼。
みんなの注目を痛いほど集めているのに、何食わぬ顔だ。

「先生!教わりに来ました!」

彼の元気の良さに、友達は笑いながら「ここ使いなよ」と席を空けてくれた。
友達に「ありがと!」とお礼を言ってどっかりとわたしの前に座る。

追試の範囲は中間試験と同じだし、問題もさほど変わらないはず。
それでも、突然できた目の前の「生徒」のために最善を尽くそうと思った。

「リエーフくんは、ハーフ…なのかな?」
「うん。母親がロシア人なんだ」

わたしの授業ノートから重要箇所を写したり、
簡単なクイズを出すと、うーんと迷いながらも必死に答える彼。
体に不似合いな小さい机に、背を丸めてかじりつく姿は真剣だ。

「ハーフなのに英語は全然ダメでさ。よく外国人に絡まれて困ってる」

少し眉を寄せて苦笑い。
こうして最初の授業はあっというまに終わった。

その後も、わたしの教室にちょくちょく顔を出してくる彼はちょっとした名物になった。
彼が声をかける前に気づいた友達がわたしをつついて
「いつもの、来てるよ」と笑いながら教えてくれることもあった。
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