twitterであげていたおはなし。

□青城バレー部の勉強会
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「国見ちゃん。何のためにここに集まってるのかわかってるよね」

揺すっても微動だにしない。
教室に入ってきてまだ数分しか経ってないのに…
寝る子は育つって言うから、こんなにでっかくなってしまったのかい。

それでも辛抱強く揺すり続けていると、ん…と声をもらしながら突っ伏した腕を緩める。
左腕を枕にし、右腕はだらんと下げられた。
そこからのぞくのは、

まぶたをふちどる長いまつげ。
形の良いおでこ。
そのおでこにかかっているさらさらの黒髪。
スッと通った鼻筋。
ほんの少しだけ開いている桜色の薄いくちびる。

これは…一種の芸術品だ。
前から、きれいな顔だとはなんとなく思っていたけれど
こんなに近くで、こんなに無防備な彼の顔を見ることなんてなかった。
やばい。ドキドキしてきた…

それでもわたしは、彼の顔から目を離せずにいた。
あんなに騒がしかった周りのみんなは、こんな時に限っておしゃべりと勉強に集中していて
国見と、起こそうとするわたしを気にもとめていない。
彼のすぐ左側にいる金田一も教科書にかじりついていて、こちらは眼中にないようだ。

起こすと、この作品は一気に姿を消してしまう。
ずっと見ていたい、でも起こさないと…自分の中での感情のせめぎあい。

すると。

膝の上に置いてあった右手を温かい何かが包む感触。
思わず、えっ、と小さく声が出てしまった。
視線を落とすと右手はそっと握られていた。

…寝ているはずの、国見に。

起きてるの?それとも寝ぼけて?
どちらなのかわからない。
確かめるため、国見の手から逃げてみると…追ってきた右手。
起きてるんじゃないの、この子。

「国見ちゃーん。勉強しようよ。起きてるんでしょ?」

平静を装って、左手でまた背中を揺さぶる。
わたしの右手を掴むチカラは、変わらない。
むしろ、ほんの少し強くなった気さえする。

諦めて背中から手を離した時、閉じていた瞳が開いてわたしをとらえた。
じーっと見つめるばかりで何も言わない。
右手同士、繋いだまま。
両目、見つめ合ったまま。
なんなんだ、この状況。
そしてどんどん速くなっていく心臓の音。

彼のくちびるが動く。
でも声は聞こえない。
眉が切なげに寄せられている。
もしかして、具合悪いのかな…?

「国見ちゃん、どうしたの?」

そう声をかけた後に彼の声を拾うため、耳を口元に寄せた。
ごく、とつばを飲む音が聞こえたかと思ったら。

「ぎゃっ!?」

ガタンと派手に音を立て、椅子から飛び上がった。
その拍子にするりと外れた手。
鏡なんか見なくてもわかってる。
自分の顔が熱く、赤くなっていること。

わたしの奇声にさすがに気づいたみんな。

「何、どうかした?」

どうかしたよ。でも、言えるわけないじゃん。
…あんなこと。

「ちょっと暑いから、外行ってくる!」

はずかしさで爆発しそうな心を抑えて、教室を飛び出した。
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