twitterであげていたおはなし。

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廊下に点在する制服姿は、わたしよりもずっと大人びてて
時折いいにおいがする…気がする。
1年坊主には、場違いな空気かもしれない。

それでもめげない。
大好きな先輩と同じ校舎で過ごせるのはあと数ヶ月。
少しでも、目に入れておきたい。先輩の色んな姿を。
そんな気持ちで今日も、10分間の休み時間を費やす。


入学直後、移動教室で迷子になっていたわたしと友達に
どうしたの、って優しく声をかけてくれた人。
早く慣れるといいね、って笑顔を残して去っていった。

学年も名前も聞きそびれてしまったわたしは、
その日から上級生の教室めぐりを始めた。
2年生の教室をひとつひとつ見ていった時、ある教室に見つけた先輩の姿。
2年生だったんだ、それならあと2年間は一緒にいられる…!
そう思ってたのに、先輩は話していた相手に「じゃあな、縁下」と手を振り、出て行ってしまった。

戸惑っている暇はない。
覚悟を決め、一人で廊下を歩いていく先輩の前に回り込んだ。
先輩は驚いてたけど、すぐにあの時のようなあたたかい表情になった。
先輩が口を開く前に、口火を切る。

「わたしのこと、覚えてますか?」

あんな一瞬のこと、普通なら覚えてないはず。
同じ学年の人でも覚えきれるわけないのに、ましてこんなひよっこのことを。
でも、聞かずにはいられなかったんだ。
ほんのひとかけらでも、覚えていてくれたら、そしたら…

「ああ、視聴覚室がわからないって迷子になってた子…かな?」

うそみたい。
先輩は相当記憶力がいい人、頭のいい人なのかも。
偶然だとしても、覚えていてくれた…その事実がハートに火をつけた。

「わたし、先輩のファンなんです。大好きです!」

堂々と宣言したら、わたしを見た時よりもさらにびっくりしていた。

「え?俺…?」

大きく頷いてから、クラスと名前を告げた。

「先輩とお近づきになりたいです。よろしくお願いします!」

ガバッと勢いよく頭を下げたら、顔上げて、と促された。
まいったなーと言いながら頭を掻いている先輩。
その時、予鈴が鳴った。

「気持ちは嬉しいけど、俺、そんなすごいやつじゃないから。
授業遅れちゃうよ、ホラ」

後ろ髪を引かれる想いで、あの、お名前は…と声をかけたら
振り向きながらにっこり笑った。

「3年4組の、菅原孝支。
あと、名前も知らないのに、簡単にファンだなんて言ったら、
男はみんな浮かれちゃうよ。気を付けようね」

新しく手に入れたあの人の名前を頭の中で繰り返し呼んでみる。
菅原先輩、浮かれてください。思い切り。
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