twitterであげていたおはなし。

□計画的な夜久さんのお話。
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色々と運が悪かった。
見てないけど、きっと朝の占いは最下位だったんじゃないかな。

何気なく寄った職員室で、担任に呼び止められた。
傍らにある段ボール箱を指差して、

「これ、社会科準備室に運んでおいてもらえるか」

今日はテスト前で全員放課後は自由なはず。
それなのにこんな用事を頼まれてしまうなんて。
チラリと中を覗けば、緑色の表紙の地図帳。
きっとこの春から地理を専攻する2年生のやつだ。

でも、明らかに女子一人で運べる重さではなさそう。
さて、どうしましょうかね…

「ちょうどよかった。おい夜久。お前もこれ、運んでくれないか」

先生が声をかけたのは、日誌を届けに来たクラスメイトの夜久くん。
男子の中でも小柄で、小動物のような愛らしい顔立ち。
お世辞にも、力仕事に適任といった感じではない。
もっと体のデカイ、無駄に体力余っていそうなヤツに頼めばいいのに。

「いいっすよ」

実に感じの良い返事で日誌を先生の机に置き、
段ボール箱とわたしの目の前に来る。
ふたりとも鞄を抱えているから、今のまま運ぶとバランス悪そう…
鞄をここに置いていこうかな、なんて思っていたら。

「俺、持つから。悪いけど俺のバッグ持ってくれるかな。
部活ないから、中身軽いし」

そう言って鞄を床に置き、箱を持ち上げ、ゆっくりと職員室の入口に向かう。
わたしは彼の鞄を肩にかけ、社会科準備室の鍵を持った後、小走り。
両手があいてないから、職員室の扉を開けてあげなきゃ。
でもそれよりも先に彼は、足を使い、えいと扉をスライドさせた。
案外、こんなことする人なんだなあ。


3階の廊下は静まり返っていた。
もうほとんどの生徒が帰っているんだろう。

突き当たりにある、普通の教室の半分くらいの広さの社会科準備室。
鍵を開け、少し建て付けの悪い扉を開いて先に彼に入ってもらう。
そして扉をがたつかせながらゆっくりと閉めた。
壁には丸められた世界地図の筒が何本も立てかけられていて、
棚には分厚い資料がぎっちりと収められている。
ひとつだけ置いてある机の上に、彼が段ボール箱を置いた。

「ふう。思ったより重いな。でもいい筋トレだ」

そう言いながら備え付けの教員用椅子に腰を下ろす。

「ちょっと休憩していい?」

わたしは頷いて、床に座り込んだ。

「あー、ダメダメ。こっち座りなよ」

椅子から立ち上がり譲ってくれようとするから
わたし大して仕事してないし、と断ったら…隣にぺたりと座る彼。

「じゃあ、俺もこっちでいいや」

変なの。
18歳になろうとしている男女ふたりが、まるで幼稚園生のように
薄暗い部屋の中、床に体育座りをしているなんて。

受験あるねえ、1年後、大学生なれるかな、なんて他愛もない会話を楽しんで、
さあ行きますか、と先に立ち上がった彼が扉に手をかけると。

「…あれ、おっかしいな…」
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