twitterであげていたおはなし。

□計画的な夜久さんのお話。
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ガタガタと揺らしても数センチの隙間しか開かない扉。
さっき入った時もぎこちない動きだったけど、こんな時に開かないなんて。
彼は必死で扉に力をこめているようだったけど、隙間はもう広がらない。
きっと女のわたしがやってもびくともしないだろうけど…

「加勢しよっか?」
「いや…これは無理だよ。仕方ない、応援を呼ぶからちょっと待ってて」

鞄をたぐり寄せ、スマホを手に取る。
壁際に移動し、どうやら電話をかけているようだ。

「もしもし、黒尾か。悪い。ちょっと頼まれてほしいんだけど…
………わかったよ、おごる。とにかく社会科準備室に来てくれ。
緊急なんだよ。来ればわかるから」

黒尾を呼んで外から開けてもらうつもりなんだな。
力もありそうだし、ちょっと安心。

「黒尾、家の近くまで来てたから、鞄置いたらすぐ来るって。
多分…30分以内には。それじゃ遅いかな?」
「いやいや、助けてもらえれば何時だって構わないよ。
帰ったら勉強ちょっとやるだけだし」

こうしてわたしたちは、黒尾の到着をじっと待つことにした。
やっぱり、占いは最下位に違いない。



よく考えたら春にクラスが一緒になってから、こうしてじっくり話すこともなかった。
名前と、部活動はもちろん知ってる。
あとは、調理実習の時にやけに手際がよくて先生に褒められてたり、
身体測定の後に黒尾に「また伸びなかったのか」と言われて
見た目にそぐわないローキックを食らわせていたことぐらいかな。

せっかくだし、と質問してみることにした。
何か新しい発見があるかもしれない。

「夜久くん」
「ん、なあに?」
「夜久くんって兄弟姉妹いるの?」
「ああ、大学生の姉貴と、中学生の妹がいるよ」
「そっか、だから女の子ともうちとけやすいんだね」

彼はクラスの誰とでも話すし、特に女子の輪にちょこっとだけ顔を出して
楽しそうに言葉を交わす姿は至って自然だった。
女子は「夜久って話しやすいよね」「違和感ナシ」なんて言っていたし
男子からは「お前はいいよな、俺だったら肩に手を置いただけでセクハラ扱いされるのに」って。
あ、これは黒尾が言ってたんだっけ。

なんてことを考えていたら、彼がポツリ。

「…でも、本当に仲良くしたい人、好きな子にはあんな風にできないんだよ」

その横顔はちょっとだけ寂しそうだった。
それってクラスにいるのかな…誰だろう?なんて思いを巡らせてみる。

「まだ時間あるよ。がんばれ」

月並みなわたしの応援の言葉に、ありがとう、とだけ返した後、
大学受験のことをつらつらと話し出す彼。
やっぱ家から通えるとこがいいな、学部はどこがいいかな、なんて。
普通の受験生らしい悩みや目標を、のんびり話して過ごした。


結構な時間が経ったような気がした。
携帯を見ると、黒尾に応援要請をしてから30分が経とうとしている。
すると、すっくと立ち上がり、扉の前に立つ彼。
でもまだ外に黒尾の気配は感じられない。

「どうしたの?まだ来てないけど…」

戸惑いながら後ろ姿に声をかけると、彼は突拍子もないことを言い出した。
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