twitterであげていたおはなし。2

□すきにして、いいよ
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季節は流れ、わたしは無事地元の大学に通うことになった。
わたしが大学1年、ということは、3歳年下の力くんが高校1年生になったということ。
受験勉強が本格化してからは縁下家に行くこともほとんどなくなって、全く顔を合わせていなかった。
半年以上経つけど、あの時の言葉は片時も忘れていない。
でも、人の気持ちは変わるものだからなあ…

GWになり、大学が別になった友達とわたしは久しぶりにお泊まり会をすることにした。
もちろん縁下家で。
別々に始まった新しい生活のいろんなことを語り尽くそう!って意気込みは十分。

その日の縁下家の食卓には、ひとつ空席があった。
力くんは部活の合宿があって不在とのこと。
そっか、会えないんだ…
自分の思っている”残念”の半分位だけを顔に出したつもりだった。

夕食を終え、お風呂に順番に入った後はお待ちかねのおしゃべりタイム。
友達はベッドに寝そべり、わたしはその横に敷かれた布団の上にいた。
やっぱり話題になるのは、恋のこと。

「ねえ、そっちの大学どうよ?いい男いる?」
「まだ友達もそんなにできてないし、わからないよ」
「じゃあ、彼氏はいないんだ?」
「そうだよ」
「ふーん、そっかあ」

意味深な笑みを浮かべた彼女は、まさかの一言を投げかけてきた。

「で。力とはどうなってんの?フッちゃった?」

なんで知ってるんだろう…
話してもいないし、態度にも出したつもりなかったのに。
というわたしの心の声は、彼女にはお見通しだったようで。

「あいつさ、変に律儀なんだよね。
『姉貴の友達、好きになったから告白したいんだけど』なんて言われた日にはさぁ〜」

じゃああの日、彼女が学校に行くなんて言ったのは…あれは。

「話をする時間作ってほしいなんて頼まれたら、断れなくて。
もしあんたが迷惑だったとしたら、ごめんだけど」

とっさに首を横に振る。
そして、全てを話した。

「…なるほどね。あいつそんなこと言ったんだ。
で、高校生になったけど動きはない、と」

しばらく考え込んだ後、彼女は携帯を手にした。
何やら文字を打ち込んでいるから、きっとメールだろう。
よし、と短く言った後に満足げな顔でこう告げた。

「力ね、明日の昼には合宿から帰ってくるんだよ。
昼間はうちの両親、美術展見に行くから留守にしてるし、わたしも出かけることにするからさ。
だから…」

力と、ふたりきりで話をしてあげて。
よろしくお願いします、でも、ごめんなさい、でもいいからさ。

長年の親友の言葉には、弟への慈愛がこめられていた。
どんな結果になってもうちらの関係は変わらないしね、と笑う彼女に心から感謝したかった。
わたしも、彼とちゃんと話をしたいと思ってたこと、もしかしたらわかってくれたのかな。
…ありがとう。


翌日、朝食をとった後はリビングでふたりでゲームに興じた。
ご両親は、美術展に行った後レストランで食事してくるとのこと。
それを聞いた友達は
(わたしも、なるべく遅めに帰ってくるようにするから)
なんて耳打ちしてくるからタチが悪い。

お昼が近づくと彼女はオムライスを3人分作って、自分だけ先に食べ始めた。
力が帰ってきたら、一緒に食べてあげて。
そう言って完食すると、鞄を手に軽やかに出て行った。
この家の中は、住人でないわたしひとりだけ。

30分ほど経つと、玄関のドアが開く音と共に、控えめな「ただいま」が聞こえてきた。
半年ぶりの再会がすぐそこに迫っている。
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