twitterであげていたおはなし。2

□隣の空席
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腐れ縁。
字に書くとなんだか、劣化していくのを時間に任せたような関係みたい。
でも、ずっと、みずみずしいふたりであることを願う自分がいた。

ぽっかりと穴があいたような気持ちなのは、隣が空席だからだろうか。
幼なじみで、同じクラスで、隣の席。
偶然にしてはそばにいすぎてきたわたしたちこそ”腐れ縁”の代表格だと思う。

デカイ声、デカイ図体で教室を賑わしているはずなのに、
その姿はどこにも見当たらない。
朝のホームルームで担任が、思い出したかのようにみんなに告げた。
「そうだ、木兎は風邪で、高熱出して休みだから」
教室中が蜂の巣をつついたかのように沸き立つ。
「あいつでも、風邪引くんだ」
「風邪菌吹っ飛ばしそうなのにな」
やいやい騒いでからは、またいつもの教室に戻っていった。


放課後、帰り支度をしていたら教室に入ってきた、あまり見ない顔。
わたしの隣の席をじっと見つめてたから、どうしたの、と声を掛けると2年生だった。

「木兎さん、どこ行きましたか?」

アイツ今日、風邪で休みなんだよと伝えると、目を見開いて驚いていた。
聞くと彼はバレー部の副主将とのこと。
今日このあと運動部の主将会議があるのに、なかなか姿を現さないから心配で見に来た、と言っていた。

「珍しいですね、あの方が休むなんて」

クラスの連中と同じセリフだ。
部活でもきっと、主将として、ムードメーカーとして愛されているに違いない。
くすっと笑ったわたしに、彼は申し訳なさそうに口を開いた。

「あの…今更なんですが、木兎さんの幼なじみの方じゃないですか?お話伺ってます。
渡していただきたいものがあるので、大変お手数なんですけど…
木兎さんのところにお見舞いに行っていただけると、助かります」

今日は配布物が多い日だった。
進路指導、学年だより、保護者へのお知らせ…
元々ごちゃごちゃしている木兎の机の中は更に悲惨な状態になっていた。
ちょうどいいから、これも届けてあげようかな。

「いいよ。で、渡したいものって何?」

わたしの答えを聞くやいなや、彼は鞄からルーズリーフとペンを取り出し
ちょっと失礼します、と断りを入れてからわたしに背を向けた。
何やらさらさらっと書き連ねている。
数分後、4つに折りたたんだルーズリーフと、鞄の中から取り出した栄養補給ゼリーのパックを手渡された。
部活前に飲もうと思ってたんですが、木兎さんへのお見舞いってことで。
風邪でもこれなら飲めそうですよね、なんていうことを言いつつ、
ルーズリーフを指さし、それ、とっても大事なこと書いてあるので、と念を押された。
よくできた後輩持ってるんだな、と感心しながら帰途に着く。
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