twitterであげていたおはなし。2

□赤葦と音駒マネのその後。
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体育館の裏に逃げ、階段に座ってぼーっとしていた。
ここは日陰になっているから、火照った体を冷ますのには丁度いい。

落ち着け、自分。

いつもならコートの中で冷静な試合運び、できているじゃないか。
それなのに、彼女の前に立つとその自信は揺らぐ。
6月に会えた時は、なんとか平静を装うことができていたけど
最後にあふれ出てしまった気持ち。
そのせいで、言葉を交わすことさえためらってしまう弱い自分が嫌になった。

「ねえ、1個じゃ足りないでしょ?水分とりなよ」

その声に顔を上げたら、彼女がスイカを持ってこちらにやってくる。
表にわんさか人がいるけど、ここでは二人きり…
変な高揚感に包まれた。

「みんな2個以上食べてるよ。あ、研磨は1個でギブアップだったけどね」

笑顔で差し出されたスイカを受け取る。
こういうところ、本当…母親みたいだ。
周りをまんべんなく見ていて、学校問わずこうやって声をかけられる温かさ。

礼を言って黙々と食べる。
食べている間に、どう切り出そうか考えればいいんだ、
なんて思っていたら

「種ついてるよ」

彼女がそっと指を伸ばして、唇の端に触れた。
きっと意識なんてせずにやっているんだろう。
でも今、彼女に対して過敏になってしまっている俺には少々刺激的で、
冷ましたはずの顔は再び熱を持つ。

「あのさ、6月のことなんだけど」

淡々と、落ち着いた口調で彼女が話し始める。
会話の主導権を自分が握ろうと思っていたからいけないんだ。
ここは彼女に任せておこう。

「単刀直入に聞くけど、最後にバスの中から言った…
あれって、わたしに好意があるってとっていいのかな?」

まどろっこしいのよりは幾分かいいけど、こうもはっきりと言われると
改めて口に出すのが恥ずかしい。
でも、ここは言うしかない。

「…ええ。あなたのことが好きです、今でも」

勘違いも聞き逃しもありえないほど、はっきりと伝える。
横の彼女は、と言うと…ほんのり頬を染め、唇を軽く結んでいた。
最後の、一押しをする。

「俺に興味ないかもしれないですけど、これから興味、持たせます。
おつきあいしている方がいないなら…俺の彼女になってください」

やっと言えた。

ホッとしていたら彼女は俺のTシャツの袖をクイッと引っ張る。
横を向くと、照れながらも笑顔で

「…よろしくお願いします」

と返してくれた。
これで、晴れて両想いだ。
肩の荷が一気におりた気がして、ふうっと深呼吸をすると。


ガサガサ。
(おい、見えねーよ、どけって)
(静かにしろよ、今いい感じっぽいから!)

植え込みの動く音、物陰から覗く4つの目、はみ出してる手足。
…全くあの人達は。

「木兎さん、黒尾さん」

その名を口にして、声のした方向をサッと向いた。
すると、イタズラがバレた幼稚園児のように二人ともこちらに向かってくる。

「赤葦はホント勘がいいよな〜」
「勘が良くなくてもわかります、微妙に声、聞こえてましたし」
「で、うちのマネと…よろしくやってんの?」
「……っ」

黒尾さんはほんと食えない人だ。
何て返したらいいんだろうか、と思案していると後ろから彼女の声。

「黒尾。わたし、これからあんた達の世話で疲れた時は、
赤葦くんに思い切り甘えることにするから」
「ほお…なるほどねえ」

なんてことを言うんだ。
あなたって人は……本当に。
右手で顔を覆ってため息をついた。

「あかーし!」

顔を上げたら木兎さんが満面の笑みでこっちを見ていた。

「赤葦も、俺らの世話で大変だもんな!甘えればいーじゃん!な!」

顔を見合わせる俺と彼女。
そしてうつむくのも同時だった。

「待て。正確に言うと『お前の世話』だろ?・・・ほら、行くぞ」
「エッ、俺限定!?」

そんなことを言いながら、お騒がせな二人の主将はみんなのいる表に戻った。
遠ざかる足音、小さくなる声。
また、ふたりきりになった。

「赤葦くん」
「…なんでしょう」
「座ろ」

また元いたところに座り直すと、彼女がこてんと俺の肩に頭を乗せた。

「えっ…」
「甘えても、いいよね?」

断れるはずなんてない。
ほのかなシャンプーの香りとやわらかな髪の感触、彼女の重み。
いつもなら心地よいと感じる夏の風も、今だけは止んでいて欲しい。
彼女を撫でて、せっかくの熱や香りを持っていってしまいそうだから。

敵同士だけど、一時休戦。
青空と流れる雲を見つめながら寄り添う。
来年には訪れないこの時を存分に味わったら…表に出ましょうか。
みなさんにどうしたの、って聞かれた時に
あなたが何て言ってくれるのか…楽しみにしています。
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