twitterであげていたおはなし。2

□甘えていいんだよ
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バス乗り場に入ってきた空っぽのバス。
先頭に並んでいたわたしは、定期券を運転手さんに見せるとすぐ、一番後ろの5人掛けめがけて走った。
混雑する時間ならこの席なんて絶対取れないし、取れたとしても他の人と相席。
けど今なら、ふたりで悠々座っていても大丈夫。
乗客はわたしたち以外に数人で、全員前方の1人席に座っていた。

窓際に詰めて座る。
これなら最悪、途中で混雑することがあっても迷惑にならないし。
隣の及川さんはスポーツバッグを左の空席にドカっと置いた。

バスがエンジンをかけ揺れ始めた。
十数分後には学校に着いてしまう。
一番後ろだから誰も見ていない、無防備な空間。
だからこそ、彼に言ってみたかった。

「及川さん」
「なあに」
「…肩、どうぞ」

目を丸くした彼はわたしの意図など全然わかっていない。

「…疲れてるなら、少しの間ですけど肩貸しますんで、寝ててください。
着いたら起こします。…ちゃんと休んでほしいから」

頑張れとか無理しないでとか、いくら言葉で言っても
この人の心の奥には届かない気がした。
きっとみんなに振りまいてるのと同じ笑顔で、大丈夫って笑うから。
それなら、態度で示すしかない。
甘えていいんだよ、頼ってほしいんだよ、ってことを。

ぽかんとしていた及川さんだけど、フッと微笑んだ後、

「じゃあ、借りるね」

そう言ってわたしの肩に頭を乗せた。

結構人の頭って重いんだな。
この頭の中はきっと、いろんなことが詰まってる。

バレーのこと。
将来のこと。
家族や友達のこと。
…わたしのことも、少しでいいから入っていたらいいな。

そう思いながら重みを楽しんでいたら、及川さんは目を閉じていた。
よかった、少しは安心してくれてるのかな。


あと1つで学校前の停留所に着く。
右腕を伸ばして彼の左肩に手をかけ、揺する。

「及川さん、起きてください。もう着きますよ」

少しずつ目を開けた、かと思ったら。
開ききるよりも早く、あっというまに顔が近づいて唇が触れた。
わたしが彼の肩に手を置いているせいか、
もし正面から見られていたら、まるでわたしから彼にキスしたみたいな構図。

唇を離した彼は、

「十分休まったし、今ので元気もらったよ。ありがとう」

朝イチで会った時よりもスッキリとした笑顔を見せてくれた。
…まぁ、いっか。

車内アナウンスが青葉城西高校前を告げると、彼が腕を伸ばし降車ボタンを押した。
ほどなくしてバスが止まると、彼がすっくと立ち上がりわたしの手を取る。

「さあ、今日も頑張ろっか」

バスを降りてから部室の前まで、その手はずっと離れなかった。
でも、ふたり分の熱を持った手も、お別れの時が来る。
手を離された時、寂しさを顔に出してしまったのが自分でもわかった。
彼はすぐに、わたしの頭にその手を置いて優しく撫でる。

「ちゃーんと、及川さんの力になってるからね。そんな不安な顔しない。
笑ってる方がずっと可愛いよ」

部室に入っていく後ろ姿に向け、心の中でつぶやいた。

及川さん、気づいていますか。
あなたも、あなたが思っている以上に、わたしの力になっています。
そして、あなたが思っている以上に、わたし、あなたのことが大好きです。

いつか真正面から、言えますように。
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