twitterであげていたおはなし。2

□失恋を振り返るスガさんのお話。
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恋とはなんてあっけないものなんだろう。
まるでこの水槽の中、上がっては消えていく泡みたいだ。

突然生まれたかと思えば、自分の知らないうちに膨らんでいく。
想いが大きくなればなるほど、壊れないように必死に守ろうとする。
そして…いつかは虚しく割れ、跡形もなく消えていく。
ちょうど半年前、俺の手の中からぱちんと消えていった彼女。


残暑が厳しい9月半ば、帰り支度をしている彼女の机の上、
先日受けた統一模試の結果が無造作に置かれていた。
俺らは一応進学クラスだから、ほぼ全員が1月のセンター試験を標的にしている。
きっと彼女の向いている方向も俺と同じだろうなと思っていた。

フェアじゃないかもしれないけどチラッと覗き見る。
判定欄に並んだ学校名には、全部地名が入っていた。
全部、ここ宮城から遥か遠い地だ。

「なぁ、お前…地元の大学受けないの」
「え?あ……」

サッと模試の結果を鞄の中にしまい込んだ。
そして、目を合わせてくれない。
せっかく一緒にいられるのに、その後の帰り道はずっと無言だった。
さっきの態度が気になって、でも聞いてはいけないような気もしてた。

「あのさ、わたし、宮城を離れるつもりなんだ」

立ち止まった彼女から、改めて突きつけられた現実。
俺は県内、できれば仙台市内にある大学に行ければいいなと考えていた。
バレーも続けるつもりだ。
烏野にたまに顔を出したいし、町内会チームに参加しても面白いかも、なんて思ったり。
そして、今までは部活ばかりで構ってやれなかった彼女とも
たくさんの時間を過ごせるだろうなと期待していた。

その期待は今、打ち砕かれたんだ、その彼女に。
何も言えずにいる俺に、彼女は少しずつ自分の思いを話してくれた。

中学生の時に見たある映画がすごく好きだった、と。
そしてその映画がイタリア人監督の作品だったことから
イタリアという国に興味を持ち、イタリア語を学びたいと思うようになった、と。
だから、イタリア語学科のある大学に行きたい。
いずれは留学だってしたいと思ってる。
東京か、西の方しか学科がないんだよね。
彼女は淀みなく言い切った。

彼女が英語が好きだということは知っていた。
だから、てっきり県内の英文学科のある大学に行くものと思っていたのだけど…
さっきの説明で、彼女の選択肢が県外になったのも納得できた。
でも、あくまでも学部選定だけを考えた時の話だ。
大切なことを、彼女は忘れていないか。

「…俺が県内で進学したいって言ってたのは、覚えてた?」

将来と自分を天秤にかけてもらおうなんて図々しいかもしれない。
でも、1年の時からのつきあいだ。
ほんの少しでもいい。
俺から離れる寂しさを感じて、宮城に留まる気持ちがあってほしい、と願った。

彼女はゆっくりと口を開く。

「もちろん、覚えてるよ。
でも、わたしはわたし、孝支は孝支、でしょ」

まっとうな意見だ。返す言葉もない。
でも、少しくらいは…近くにいたいって思ってくれたっていいのに。
俺は半ばやけくそになって彼女に告げる。

「…俺も東京とか関西の大学受ける。
向こうにも大学たくさんあるし、お前と同じは無理でも近くの大学には通えるかもしれない」

もしかしたら、これで彼女が笑顔になってくれないかなと思っていた。
春からも近くにいられるね、なんて。
県内に固執していたわけではないし、バイトしながら通学すれば親の負担だって…
そんな風に思いを巡らせていたら、ガンとハンマーで殴られたような一言が飛んできた。

「自分の行きたい場所をちゃんと選びな。
わたしに合わせるなんて、絶対にダメだよ」

俺はお前のそばにいられればどこだっていいんだ。
大学がどこであっても勉強することはできるし、就活だってできる。
将来を棒に振るとまではいかないだろう。
それなのに…拒まれた。

彼女が、全てだった。
落ち込んだ時も苦しい時も彼女がいたから立ちあがれた。
お前のためなら、人生という時計の針が多少狂っても構わないというのに。

言葉が出ない俺に彼女は冷淡な言葉を浴びせてきた。
体の芯まで凍ってしまいそうな、聞きたくなかったあの最後通告を。

「ねえ孝支、距離を置こう」
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