twitterであげていたおはなし。2

□東京合宿で出会った山口と梟谷マネのお話。
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けど、いざ練習となると近づける空気じゃなかった。
ミニゲーム中はもちろん他校だから無理だし、
その後の自主練も、同じ烏野の先輩達と話していたから
邪魔しちゃいけないなって思って遠目に見ることしかできず。

そんな中、烏野のマネージャーさんと話す機会が訪れた。
お互いの学校の様子を話していくうちに、ついに話題は山口くんに。
同級生の仁花ちゃんが、興奮気味に話してくれた。

「山口くん、すっごい練習頑張ってるよ」

そして3年生の清水さんも、

「山口は、試合の時はマネの仕事も進んで手伝ってくれるしね。
なんかサーブを特訓し始めてから、すごく練習全体にも真剣味が増した気がする」

マネージャーの立場から見ていても、彼の努力は相当なものなんだろう。
…いいな。
わたしもそんな風に近くで、頑張ってる姿を毎日見れたら…
せっかく聞けた話なのに、心の奥に一番強く残ったのは”羨ましい”という気持ち。
きっと、また会える。
今回話しかけるのは見送ろうかな…と思い始めた。


あっというまに合宿最終日の前夜になってしまった。
結局何もできないまま、終わってしまうのか…と思っていたら
マネ部屋になっている教室に、副主将の赤葦先輩が顔を出した。

「烏野の1年生が呼んでるけど」

指さしたのは、わたしだった。
烏野の1年生。
そう聞くと思い浮かんでしまうのは…都合よくも彼しかいない。
立ち上がって教室を出ると、赤葦先輩に「ファイト」と背中をポンとやられた。
いつもクールな先輩がいたずらっ子のようにニッと笑う姿、初めて見た。

第一体育館にいくと、たった一人でサーブ練習に励む姿。
ずっと、隙あらば目で追い続けていた彼がすぐそこにいた。
わたしの姿を見ると、軽く会釈をし、ぎこちなく笑った。
一秒でも惜しい。
サッと彼のもとに駆け寄る。
彼も元いた場所からこちらに近づいてきた。
そして、コートとコートの間で向き合う。

「久しぶり、だね」
「そう…ですね」

だだっ広い体育館にお互いの声が響く。
何から話せばいいのか頭をフル回転させていると。

「話しかけたかったんだけど…こんなに遅くなってごめんね」

ああ、彼もわたしと…同じだったんだ。
言葉は交わせなくても、過ぎ去った時間に同じ気持ちでいられたことがこんなにもうれしい。

「ちょっと、見ててほしい」

そう言うと、エンドラインの少し後ろにボールを持って移動した。
数回バウンドさせたボールに、目をつぶって気を送り込んでいる。
次の瞬間、ボールが宙に舞い、彼の右手がボールの背中を強く後押しした。
空気に乗ったボールは不規則な軌道を描く。
見事ネットの向こう側、アタックラインの後ろに落ちた。
これが…ジャンプフローターサーブ、なんだね。

「っし!」

小さくガッツポーズをして、わたしのところに戻ってきた彼。

「やっと…見せられた」

そう言って咲いた笑顔が、とてつもなくまぶしくて直視できなかった。
うつむいて、恋心をあらわにしてしまっている顔を隠しながら
彼の言葉をしっかりと耳に入れる。
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