twitterであげていたおはなし。2

□金田一少年の初デート奮闘記(後編)
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〜金田一side〜

運命の月曜日。
待ち合わせは10時に仙台駅西口。
及川さんに言われた通り、早めの9時半に到着した。
後ろにあるガラスの扉に映る自分の姿を今一度確認してみる。

結局髪型は、及川さんの言うギャップとやらに賭けてみた。
いつもみたいに立てなくていいから楽かなと思いきや、起きたては寝癖が盛大についていて直すのに苦労した。
及川さんとか、あの髪型どれくらいかけてるんだろう…
彼女が俺に気づいてくれるか、も問題だけどな。

十数分後に鳴った携帯を確認すると、彼女から駅に着いたと連絡が来ていた。
いよいよ心臓が跳ねだす。
しばらくして、ぽん、と背中に感触。
振り向いたら、秋色に包まれた彼女がおはよう、と笑っていた。
白が基調の制服姿を見慣れているから、深い赤を纏っていると新鮮だ。

「あのね、少しだけヒール履いてきたの」

そういって足元を指差す。
30cm以上違う目線。それを少しでも縮めようとしてくれている。
そんな彼女のいじらしさに、顔が緩まないはずがない。

「髪型…変えたの?」

あまり驚いてはいないみたいだ。
学校に行く時だけああいう風にしてる、と答えた。

「勇太郎くんおっきいからすぐわかったけど…前から見たら別人だね。
でも、なんだか新鮮でいいかも!」

そう言って笑ってくれたから救われた。
この笑顔を、今日はひとりじめだ。

彼女は、ベタだけど…と市内にある遊園地に行きたいと言った。
お互い小学生ぐらいの時に何度か行ったことがある場所だ。
でも今日は、家族でも友達でもなく、大切な人と。

すぐ目の前にあるバス乗り場から、バスで一本、約20分。
二人がけの席の意外な密着度にドキドキしてるのは、俺だけか。
いつもならドカっと足を開くところを、膝頭同士を近づけ控えめに座った。


八木山動物公園前、懐かしい風景に降り立った。
園内の奥にある、昔、ずっと下から見上げてたはずの観覧車。
今も見上げてることに変わりはないけど、大分目線が違う。

乗り物に乗るならフリーパスがいいかなと思ったけど…意外と財布に痛い。
どうしようか考えていたら、料金表を指差して彼女が言った。

「わたしね、乗り物あまり得意じゃなくて。
だから、のんびりしながら…気が向いたら怖くない乗り物、乗りたいんだけど。
普通に入園券と、あとは11枚綴りののりもの券にしない?」

俺は全部払うつもりだったけど、同い年だしフェアじゃないよと言って
彼女は財布をしまおうとしなかった。
きっと俺の財政事情もなんとなく、わかってくれているんだろう。
小遣いをあげてもらう方法を考えつつ、正月のお年玉は全額貯金しようと決めた。

園内をぐるぐると歩き回りながら、時折ベンチに腰掛け休憩。
つきあっていることはまだクラスの奴らには言っていないから、教室ではあまり話さない。
直接話せるのは、一緒に帰る時ぐらい。それもまだ2〜3回だ。
だから、こんなに彼女と話したのはもしかしたら初めてかもしれなかった。

彼女はどんな話題でも、それで?とかもっと教えて、と目を輝かせて聞いてくれた。
ホットドッグのケチャップを口の端につけながら、無邪気に笑う。
ただ、ついてるよ、としか言えなかった。
例え紙ナプキン越しでも彼女の肌に触れるのは、まだちょっと勇気がいる。

閉園時刻が徐々に近づくと、彼女がついに「乗り物、乗らない?」と言ってきた。
時間的に乗れるのはひとつかな。
自然と目が行くのは、観覧車。
ふたりきりの空間、か…なんて思ってたら、「観覧車にしよう」と言われてしまった。
俺の考えてること、全部顔に出てるのかもしれない。

係員に券を渡し、乗り込むと二人分の重さで一瞬沈み込むゴンドラ。
どう座ろうか迷ったけど、バランスを考えて向かい合って座ることにした。
本当なら、てっぺんでキス…とかしちゃうんだろうな。
でも俺にはそんなことできる勇気なくて。
それに拒絶されたりなんてしたら、この小さな箱が地上に着くまで気まずい思いをすることになる。
高いね、と感嘆の声をあげる彼女に、そうだな、と返し
あとはひたすら外の景色を眺めた。
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