twitterであげていたおはなし。2

□風邪を引いた龍のお見舞いに行くお話。
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「お邪魔…するねー?」

ふすまを開けると、おでこに冷却材を貼った部屋着姿の彼が
あぐらをかいて座っていた。

「ああ、お前だったのか」
「うん。バレー部を代表して来たよ。熱は…?」
「37℃だ。昼前は38℃近くあったんだぜ」

大分熱が下がったからか、顔色もいつも通りで案外元気だ。
部活のみんなも心配してたよ、と差し入れのメロンパンを渡す。
すぐに袋を破いて食べようとしたから慌てて取り上げる。

「熱下がって元気になってから!」
「だってよ…お粥じゃ腹にたまんねえし」
「早く治したいなら、もう少し我慢しよう?明日、熱なかったら食べればいいじゃん」
「…わかったよ」

あと、差し入れもだけどわたしにはもう一つ任務がある。
縁下から、もし田中が元気そうなら…とお願いされてきたことが。

「龍、これ」
「ん…なんだ?」

目の前にノートを数冊並べる。
忘れていたけど、もうすぐテスト期間に入るのだ。
赤点が毎回危ぶまれている龍のことを心配した縁下が
「休んでるなら時間はあるだろ」と託してくれたノート。

「縁下がね、テストに備えて写しておけって」
「ゲェッ!人が伏せってる時にも勉強って…アイツ鬼畜か!?」
「縁下が、自分から貸してくれたんだよ?いつもは、自力で何とかしろって言うのにさ」
「…」
「ね?ありがたいでしょ?それだけ元気なら、早く写そう」


シャーペンがカリカリとノートの上を走る音。
なんだ、意外と真剣にやるじゃないの。
感心しながらもそっと盗み見た横顔。
クラスが違うから、こういった勉強モードの顔を見たのは初めてかもしれない。
つい夢中で見続けていたら、

「……おい!何、見てるんだよ」

顔を上げた彼がこちらを不審そうな顔で見ている。

「ごめんごめん、ボーッとしてた」
「…そうなのか?ま、いいけど」

彼の顔、さっきより赤い気がする。
もしかして熱が上がってしまったのかも…

「龍、いいよ。しんどいなら、わたしが残り、写してあげる」

ごまかすためにノートを奪い、せっせとペンを動かし始めた。
しばらくすると、突然の質問。
それはごく普通のことかもしれないけど、わたしには一瞬答えに詰まってしまう質問だった。

「なあ。…何でここまでしてくれるんだ?たかが部員とマネージャーだろ?」

その目はからかいとかは一切含んでいなくて、至って真摯。
世話が焼けるから、なんて適当に流すことだってできるはず。
それなのに、今ふたりきりで過ごしているという雰囲気に押されるように
わたしの口はすんなりと白状してしまった。

「そりゃあ……好きだから、に決まってるでしょうが」

可愛げのない言い方なのはせめてもの抵抗。
照れ隠しで、また手を動かし始める。
彼はずっと黙ったままだ。
ええい、この際言ってしまえと自分から切り出した。

「…気づいてなかったでしょ?バレーと清水先輩に夢中だもんね」

皮肉たっぷりに言ってみせると、彼はすぐさま否定した。

「潔子さんは、まあ、美しいし…でもそれは恋愛感情とは別でだな…」

あまりすっきりしない言葉尻。
試合中みたいなガッツあふれる男らしさは見当たらない。
はっきり言えよ、ってもどかしく感じていたら、静かにポツリ。

「例え部の代表だからだとしても、
お前がこうやって見舞いに来てくれたの、すげえうれしいし…」

これは…脈アリってことでいいのかな?
もうちょっと、先の言葉が欲しい。
だからわざと意地悪に言って様子をうかがう。

「わたしが来てうれしいって、なんで?」

彼はうらめしそうにこちらを見ると、頭を掻きながらボソッと一言、

「……好き、だから」

へへ、まさかの両想いだなんて…言ってみるもんだなあ。
うれしくってニヤニヤしていたら、頭をコン、と小突かれた。
そして。

「心配してくれて、ありがとな。
早く治してお前にかっこいいところ見せっから」
「うん。でもその前に、テストを頑張れ」
「うっ…何だよ、せっかくキメられたかと思ったのによ〜全くお前は…」

そう言いながらどんどん真顔になっていく。
肩に置かれた手、近づく顔にドキッとしていたら
その刹那、スパンとふすまの開く音。
慌てて離れると目の前にはお姉さん。

「彼女ちゃん、お菓子食べる?おっと…お取り込み中だったか」
「…うるせえよ」

今度は”彼女”というの、否定しなかった。
おっ、という顔をしたお姉さんはお茶とお菓子を置くと
笑顔を振りまきながら出ていき、ふすまを閉めた。

「は〜びっくりした…」

心臓のドキドキがおさまらないうちに、隣から伸びた手が頬に触れる。
息を呑む一瞬。

………ねえ。

次はわたしが、休んじゃうかもよ?
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