twitterであげていたおはなし。2

□孤独を埋める存在
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なんて日だ、ってどっかの芸人が言ってたな。
そんなの…わたしが言いたいぐらいだよ。
くやしくて、唇をぎゅっと噛みしめて後ろ姿を見送った。


教室にのろのろと戻る。
午後からの授業なんてきっと、これっぽっちも頭に入らない。
さっきのダメージは人生で最大かもしれないから。
席に座って、盛大なため息をひとつ。

「あれー?どうした?元気ないな」

後ろの席から呑気な声が聞こえてきた。
くるりと振り向くと、腕組みをしている花巻。

この花巻貴大という男とは、3年になってから同じクラスになった。
強豪バレー部のレギュラー、ノリもよく甘いものが大好きとくれば
男女共に親しまれるキャラクターなのだ。
この前、女子の輪に一人で混ざって、

「スイパラ行くの?いいなー俺も混ぜて」
「マッキーは部活でしょ」
「じゃあ…月曜に誘って。男一人じゃ行きづらいしさ〜」
「わかった、今度ね」

なんて軽快にやりとりをしていたのも記憶に新しい。
なぜか席替えの度にやたらと近所になるので、それなりに仲良くなった。

「なに、暗い顔しちゃってさ」
「花巻には関係ないでしょ」
「大いに関係あるね。
お前がそんな風にうなだれてたら、先生から俺が丸見えだ。
優雅なお昼寝タイムってわけにいかなくなるデショ」

はいはい、そーですか、と受け流すけど
花巻はまだ視線をわたしから外さない。

「話せばスッキリすることなら聞くぜ」

一瞬だけ、ニヤニヤしてた表情がやわらいだ気がした。
どうせ話しても何の解決にもならないけど…
気に留めてくれたことがちょっとだけうれしかったから。

「あのね…」

周りに聞こえないようにひそひそ声で、さっき起こった出来事を話した。



「なるほどね、そりゃ災難だわ」

あっけらかんと言い放つのが憎たらしい。
言わなきゃよかったかもと後悔した。

「誕生日の一週間前に彼氏にフラれるとか
最近のドラマだのマンガでも起こらない設定だな」
「うっさい」
「まあ、でも実際そうなっちゃったんだから仕方ないね」

完全に他人事だと思ってる、こいつは。
まあ、他人、ですけど。

「で、どうすんの。来週の月曜」
「へ?」
「だから、お前の誕生日」

そうだ。
予定がぽっかりとあいてしまったんだった。
運良く祝日で学校は休みだから、一日デートできるなんて浮かれていたのに。

「どうするもなにも。予定は白紙だよ。
学校があれば、友達に祝ってもらえるのにな」

本音がポロリ。
男友達とはいいものだ。
こんなこともサラッと言えてしまうんだから。
でも、対する花巻の答えは予想の斜め上をいくものだった。

「じゃあさ、俺が、彼氏になってあげよーか」

聞き間違いかと思って顔を二度見すると
花巻は不敵に笑っていた。

「何、言ってんの?」
「俺は大真面目なんだけど」
「からかうのはやめようよ」

フラれた上にからかわれて笑い飛ばせるような気力は
もうわたしには残っていない。
これ以上、メンタルを削ってくるのはやめてくれ、そう思った。
でも花巻はやめるどころか、わたしの懐にぐいっと入り込んでくる。

「じゃあ、こうする。
俺の彼女になって?これなら、俺から頼んだことになるじゃん」

脳みそはひどく都合よくできているものだ。
フラれた悔しさ、寂しさが強く残っているのにも関わらず
こんなことを言われると、相手を好きだと錯覚してしまいそう。

「気遣ってくれる気持ちはうれしいよ。
でも、すぐに他の男に乗り換えたとか言われるだろうし
何より花巻に迷惑かかるから、本当にいいよ。ありがとね」

これ以上心に入り込まれたら…危ない。
必死でガードするつもりだったのに、
相手は思ったよりも手強く粘り強かった。

「もしそんなこと言う奴がいたら、片っ端から
俺が全部本当のこと説明してやるから」
「…」
「お前がみんなに責められない方法があれば、何でもする」
「…そんな、」
「気づかなかった?俺、ずっとお前のこと見てたんだけど」

授業の始まる1分前、まさかの告白。
勢い余って、気づいたら彼の「彼女になってくれる?」に頷いてしまっていた。
なんというパワープレイだろう。
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