twitterであげていたおはなし。2

□孤独を埋める存在
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結局あの後、今日から一緒に帰ろうぜと言われ
花巻の部活終わりを待って下校する日々が続いた。
教室以外で一緒にいるのは不思議な感じ。
バレー部や他のクラスメイトに一緒にいるところを何度か見られていたはずだけど
わたしの耳には嫌な噂や陰口はひとつも入ってこなかった。
フラれたアイツとつきあっていたこと、意外にみんなに知られていなかったのかもしれない。
考えすぎ…だったのかな。


帰り際、花巻がわたしに問う。

「な、全然平気だろ?お前が気にしすぎだったんだよ」
「ん……そうかもね」

でも、正直フラれた傷が完治したわけではない。
まだじんじんと痛んでいるけど、花巻という絆創膏で無理やり押さえつけている感じだ。
花巻がもし、ふっとわたしから剥がれていったら
傷はまた風にさらされ、痛みを増すだろう。

そんなわたしにも花巻は優しく、いっぱい笑わせようとしてくれた。

「部活ん時、及川が間違えて岩泉のドリンク飲んだんだよ。
そんで、及川が、『岩ちゃんと間接キスかぁ』って言ったらさ
岩泉の奴、鬼みてえな顔しててさー。傑作だったよ」

自然に、笑っていた。
もちろん話の内容にもだけど、この空気感に。
元々悪い奴とは思っていなかったけど、こんな風にあったかく包まれるなんて
はっきりいって想定外だ。

でも、そうされるほど一人になった時に嫌悪感が襲ってくる。
わたしは、ずるい。
傷ついた心を埋めようとして、一人になりたくないから
花巻の好意を利用しているんだ。
そう思うと胸が苦しくて、素直にこの状況を喜べなかった。



金曜の夜。
土日は花巻が部活、わたしは部活がないから休日。
よって誕生日前に会うのはこれが最後になる。
そんなことを考えていたら、花巻が切り出す。

「俺といて…どう?」

視線からは逃げられない。
率直な気持ちを投げかけた。

「…楽しいよ。つらいことも、少しは忘れられた気がする」
「そうか」

てくてくと歩く速さ、歩幅は違うはずなのに
花巻はいつもわたしに合わせてくれている。
手も繋がず、何も言わず。

「花巻に悪いなと思ってもいる」
「何で」
「……わたしが、忘れるために利用した、みたいじゃん」

胸の奥でくすぶっていたものをついに出してしまった。
どろどろして暗い感情。

「利用しろよ、いくらでも。
お前になら万々歳だ。喜んで利用されてやろう」

そんな風に明るい調子で言うからつい甘えてしまいそうになる。
…いけない。

「気休めの存在だとしても、役に立てたなら本望だ」

宙を見つめる花巻のピンクベージュの髪。
見上げた時、この優しい色が隣に見えるだけでどれだけ救われただろうか。

「でも、ちょっとばかり贅沢を言わせてもらうと…
ずっとこのままでいてほしいかも」

視線をわたしに落とし、ニッと笑う。
こんな顔でいつもわたしの心をほどいてくれるんだ、花巻は。

「早く忘れろ、なんて横暴なこと言うつもりもない。
けど、一番近くにいたいって思ってる。ダメか?」

調子のいい、ワガママな女だ、と見られるのが嫌だった。
でももう周りからどう見られるかとか、そんなことを気にする余裕がないほど
気持ちを持って行かれている。
でも、今の花巻の言葉にうなずけなかった。
あと少しの勇気なのにな…


「じゃあこうしよう。
俺が一人ぼっちで、彼女いない、寂しい、ってなってたのを
お前が埋めてくれたってことで。
ほら、お前のお陰で俺が救われる。それでいいんだけど」


ここまで言われて、オチない女がいたら
よっぽど相手のことが嫌いなんだろうと思う。
でも幸いにも、わたしは花巻のことが……大好き、になっている。
喜んでその腕の中に落ちようと決心した。

花巻のコートの裾をくいっとつまんで立ち止まる。
おっ、という顔を見せたから、思い切って言ってみた。

「…ねえ。月曜日、一緒に過ごしてほしい」
「もちろん、そのつもり」

そう言うと花巻はコートから引き剥がしたわたしの手を
そのあたたかい手ですっぽりとくるんで、前へ足を進める。

「直前になってアレだけど、誕生日欲しいモン、あるんじゃないの?
買い物行くか?」

首を横に振ると、花巻は不思議そうな顔。
聞こえないようにぽつり、とこぼす。

「…いい。もう手に入ったから」

今日のさよならの時までに、言えるかな。
大好きだよ、っていう一言を。
歩きながら、勇気を胸の中に少しずつためこんでいく。

手放したくない。
わたしの、大切なひと。
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