twitterであげていたおはなし。2

□遠恋彼女とのクリスマスのお話。
1ページ/2ページ

うつむいてばかり。
声をかけてもなかなか目を合わせてくれない。
声、小さい。

中学からずっと一緒の彼は、
目立たないようにひっそりと生きている人。
でも、所属していたのは中高とも運動部で、バレー部。
結構活躍していたみたい。

そのギャップに惹かれたのか何なのかわからないけれど
気づいたら目で追っていた。

高1の冬、バレンタインに思い切って告白。
彼はちょっと驚いた顔をして、静かに頷いた。

「……おれでいいなら」



心にも、世界にも春が訪れた。
部活終わりの彼を待っていると、必ず彼の幼なじみに冷やかされる。

「研磨に『寄り道してこーぜ』って言っても断られるのは、キミが原因か」

返しに困っていると、スタスタと歩いてきた彼が手を取る。

「…クロ。あんま絡まないで」
「あんま、ってことはたまにならいいんだな?」
「……いこ。無視していいから」
「おい、つれねーな研磨!」

散った桜の花びらを踏みしめた夜道、
長めの前髪が風に揺れて、現れたきれいな横顔。
炎天下、セミが合唱する中
「暑いの本当に嫌い」と文句を言いながらも離さなかった手。

そう、この手が特に好きだ。
背は普通くらいで細身の彼だけど、手はちゃんと男の子で、
わたしは手を繋がれる度にドキドキしていた。
この手でボールに触れ、たくさんのトスを上げてきたんだな…


それなのに、今、その手の感触がとても恋しい。

9月末、わたしは父の仕事の都合で宮城に転校した。
どうにか残る方法はないかと縋ったが、あいにく親戚も東京にはおらず
わたしが彼と同じ高校で過ごすことは不可能となった。

東京駅で新幹線に乗った時も、彼は見送りに来なかった。
いや、来れなかった、のだ。
部活があったから。
…というのはわたしの考える理由なだけで、
来なかった本当の理由は、彼の口から語られることはなかった。

3日に一度、彼に電話をする。
携帯代は親に払ってもらっているし、毎日電話することは難しい。

新しい学校のことを話したら、彼が5月に遠征で行った高校の近くだとわかった。
彼がこの近くに来たことがある。
それがわかっただけでも随分心強くなって、明日からまた頑張れそうだなと思った。


引っ越して2ヶ月が経った頃、
電話中にずっと気になっていたことを彼に聞いてみた。

「研磨、わたしと話してて、楽しい?」

この時、電話口の向こうで、彼はどんな顔をしていただろうか。

「え…別に。楽しいよ…?」
「ほとんど、わたしからじゃん。電話掛けるのも、話題を振るのも」
「それは……」
「もしかしてさ、他にすきな人とか大切なもの、できたのかな」
「……」
「ねえ、何か言ってよ。わかんないよ」
「……」
「…もう、やだ。ばいばい」

ひどく自分勝手だったと思うが、彼の答えを聞くのが怖くて電話を切る。
言いたくないこと、言っちゃいけないこと、言ってしまった。

彼は、おしゃべりが得意じゃない。
でも、時々ポツリとわたしの心が休まったり元気になるような一言をくれて
そういうところも大好きなのに。
あんなふうに言われて、頭にこないはずない。

やっと手に入れた恋は、転校という致し方ない事情で手の届かない場所にいってしまい
今度は自分の手で完全に遠くに追いやってしまった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ