twitterであげていたおはなし。2

□遠恋彼女とのクリスマスのお話。
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あれから数日が経ち、今宵はクリスマスイブ。
いつもより少し豪華な食事を家族で楽しみ、テレビを見て、プレゼントをもらって。
楽しいひと時を過ごして忘れようとしたのに…
頭の片隅にはどうしても、彼のことが。

パーティーを終えて部屋に戻ると、癖ですぐに携帯を確認してしまう。
もう、いつも掛けていて、掛かってこないかと待ち望んでいた相手と話すこともないだろうに。
なんて思ったら、留守電が入ってる。
誰からかな…再生をタップして耳に携帯を当てると。


「………あの、おれだけど。話したいことがあって。
……………また、掛けるね」


嘘でしょ?
数週間ぶりに聞く彼の声に自然と涙がこぼれる。
わたしの耳が、体が、心が、彼の声を欲していた証拠だ。
掛けてくれたのに出れなかったことを悔やむ一方で、話の内容が気になった。
改めて、お別れの挨拶…かもしれないな。
期待はしないでおこうと思いながら、ベッドに寝転がる。

記憶の海の中に音楽が鳴り響く。
この曲は…今まで一度も耳にすることのなかった曲。
彼から電話が来た時に設定していた曲だ。
ハッとした瞬間、自分がうたた寝していたことに気づく。
そして、手の中の携帯からはさっきの記憶と同じ曲が鳴り続けている。
画面には彼の名前。

「……もしもし」

呼びかけたけど、反応はない。
直接なら、表情や仕草でわかるようなことも
電話となると音や呼吸の雰囲気でしかわからない。
ただでさえ自己表現が苦手な彼。
一つも漏らさないように集中した。

沈黙が続く中、始まりの一言。

「…そっち、雪、降ってる?」

なんとも間の抜けた質問は彼らしくない。
でもきっと、一生懸命考えた結果だろう。

「うん、一昨日からずーっと降ってるから結構積もってるよ」

淡々と答えるように努めた。
もしこれが最後の電話になるのならば、取り乱したくない。
君とは、最後くらい…いい別れ方をしたいから。

えっと、と話を切り出したのは彼。

「………ごめん」

何に対してのごめんなのかわからず、
でも、そんな悲しい言葉を言わせてしまっている自分が嫌になった。

「………聞いてもらえてるかわかんないけど、言うね」

そう前置きをすると、つっかえたり黙ったりしながら
ゆっくりと語りだしてくれた、彼の気持ち。


…おれは、ずっとすきでいるから。
君が嫌になっても、おれの気持ちは、変わらない。

新しい学校のこと……聞くのがちょっと怖かった。
遠くに行ったんだな、って思ってしまうから。

でも、おれは……一緒にいた頃のことを話すと、寂しくなるし。
東京のことを話すと、友達のこととか思い出して…つらいでしょ。

そうなると、君と、何を話せばいいのかな、って思って。
だから、自分から電話…できなかった。


彼が一人でこんなに長く話してくれたことなんてなかったと思う。
全部、わたしのことをいっぱい考えてくれた上でのことだったんだ。
涙を流し鼻をすすりながらようやく出した一言。

「けんまのばか」

電話口でぷっと吹き出すのが聞こえた。

「なに、笑ってんの」
「だって……きっと、鼻水たらしてるんだろうなと思って」
「…まあ、間違っては、ないけど」
「…おれの気持ち、伝わったかな」
「すごく伝わった。…ごめんね、ひとりで勝手に怒ったり泣いたりして」
「……」
「…研磨?」

ひと呼吸置いた後、
舞い上がってしまいそうな言葉が耳に飛び込んできた。

「そういう君だから、おれにはないもの、持ってるから。
だから…すきなんだよ」

静かな、優しい声。
いつもは会話が一往復ずつ、それも大半はわたしが話してばかり。
そんな彼が、再びゆっくりと語りだす。
今日はなんだか饒舌、というかこれが普通の人の会話量なんだろう。
でも彼がこれだけ話すのは後にも先にもないかもしれない。
耳に、脳内に焼きつけるように、目を閉じて言葉に集中した。


おれ、正直、自分のこと話すの…苦手。
うまく話せない。

でも君は、笑ったり怒ったり、見ていてすごく楽しい。
…今は、声だけ、だけど。
それでも頭の中に、君の色んな顔、思い浮かべて聞いてる。

部活、あるし。
今すぐは難しい、けど……必ず、会いにいくから。
最後の日、見送りできなかったこと……後悔してるんだ。
行ったら余計、つらくなるから、って思ったけど…
……行けばよかった。ごめん。

また色んな顔、見せて。
本当は……今、会いたいよ、すごく。


世の中の恋人達は、互いにプレゼントを渡し合ったりするんだろうな。
でもわたしにとっては…この、彼からのたくさんの言葉が
世界中に自慢したくなるくらいの贈り物。

「研磨、メリークリスマス。風邪ひかないようにね」
「……ありがと。君も、ね。東北は寒いだろうから…」

神様は、越えられない試練は与えない。
ふたりで乗り越えよう。
またあの手に触れられる日が来るまで。
そして、もちろんその後も、ずっと一緒にいようね。
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