twitterであげていたおはなし。2

□孫娘、恋をする。
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見に来い、と言われなかったら。
言われたとしても断っていたら。
わたしの進む道は大きく変わっていただろう。
でも今は、その言葉に感謝しているし後悔はない。


おじいちゃんはえらくご機嫌だ。
一度具合が悪いなんて言って辞めた、高校のバレー部の監督。
春から復帰したかと思ったら、嘘のように元気を取り戻した。

「やっぱり、体育館に立つのは気分がいい」

そう言って笑うから、相当バレーが好きみたい。
わたしが夏に部活を引退して、これから受験勉強に本腰を入れないと、と思った矢先
おじいちゃんはバレー部の練習を見に来いと誘ってきた。

「なーに、ほんの数時間だけだから、大丈夫だ。
それぐらいでどこにも受からないようなバカな孫とは、思ってないぞ」

おじいちゃん孝行してやりなさい、とお母さんが後押しするのもあって
土曜日の午後、学校が終わった後に部活を見に行くことになった。



都立音駒。
わたしの志望校は女子高だから、この雰囲気を味わうことないだろうなと
校舎をキョロキョロ眺め、制服やジャージ姿の高校生を観察していた。
おじいちゃんの後ろをついて行って体育館に向かうと、赤いジャージのでっかいお兄さん達。
わぁ…なんか大人。一目見て圧倒された。
おじいちゃんが姿を見せると、お兄さん達は挨拶して一礼。
そして自然と視線はその後ろにいるわたしへ。

あぁ、なんかモヒカン頭の人とかいる。
こんな派手な髪型でいいんだ、都立って。なんて思っていたら
おじいちゃんがみなさんに紹介する。

「俺の孫だ。中学3年生。見学に来たからよろしくな」

ウイッス、と大きな声が轟いて、わたしに向けて一斉に下がる頭。
びっくりしながらも会釈を返す。
そしてみなさんはコートの中に散り散りになっていった。


中学生とは段違いに迫力がある、高校バレー。
気づいたら夢中で紅白戦に見入っていた。
一旦休憩な、というとおじいちゃんは体育館から出て行く。

ひとりになっちゃった、どうしよう。

思い思い休憩時間を過ごしている部員さん達。
何かした方がいいかな、なんておろおろしていたら、

「お前、バレーできんの?」

なんとも気さくに声をかけてくる人。
顔を向けたら銀髪に緑色の目、おそらく一番大きい人がそこに立っていた。
ボールをわたしに放ってくる。
慌ててキャッチしてから、答えた。

「おじいちゃんと少しやったりは、します」
「じゃあ、トス上げてくんない?スパイク打ちたい!」
「え……でも、あの、セッターの人いますよね。あの人…」
「研磨さんは休憩時間にはトス上げてくんないんだー。だから、ね、お願い!」

押し切られて、ネット付近に連れて行かれる。
ボールを頭上に上げ、おじいちゃんに教えてもらったことを思い出しながらのトス。
ちょっと低かったかな、と思ったけれどその人はスパンと腕を振りおろし
向こう側のコートに気持ちいいくらい強くボールを叩きつけた。

…かっこいいなぁ。

わたしが感嘆の表情を前面に押しだしたまま固まっていたら、
得意げな顔でピースサインを見せる。

「お前、中学生だし女だけど十分だな。もっかいやって!」

ボールを差し出しせがんでくる巨人だったけど、
次の瞬間ドゴッという衝撃音にうめき声をあげて体を折る。

「リエーフ、てめえスパイクやるんだったらなぁ…」
「ゲェッ、夜久さん…」
「君、ごめんね、こいつにつきあわせちゃって。
オラ、体力余ってんなら次のゲームまでレシーブやろうな」

巨人に比べたら随分親しみやすい身長の、先輩と思われる人が
うなだれた巨人を引きずって連れて行った。
遠ざかりながらも巨人は、わたしに笑顔で話しかける。

「ありがとな!また、トスあげてよ!」
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