twitterであげていたおはなし。2

□魔法にかけられて(Xmasのネズミの国デート)
2ページ/2ページ

コートにマフラー、足元はムートンブーツと完全防寒なのに
海の近くだからかものすごく寒い。
でも、入口のデコレーションを見上げるとわくわくで体温がぐっと上がった。
わたし以上に興奮してるのは、彼だ。

「やばい!すっげーキレイ!」
「あそこにキャラクターいる!写真撮りましょう写真!」

乗り物は来た時にいつでも乗れるから、今日はショーをたくさん見ることにした。
時間を確認した後は、園内を眺めながら食べ歩き。

「チョコレートのチュロス、おいしそうじゃない?」
「食べましょう!」

あったかいチュロスはクランベリーソースをつけて食べると甘酸っぱくて
一気に幸せな気分にしてくれた。

「先輩」
「?」
「ついてます」

口元に伸びた長い指が唇の端に触れる。
見せられた指には、赤いソース。
彼は迷いなくそれを自分の口に運んだ。

「おいしい!」
「…恥ずかしいからやめよう?」
「いいじゃないすか。こんなに人いるんだし、誰も見てないッスから」

ここに来たら最早お決まりの、といってもいいポップコーンバケツにも目が行く。
三つ目のモンスターがサンタ服を着ているやつを買ってご機嫌。

「もっと可愛いのありましたよね?なんでソレなんすか」
「えー、これだって十分可愛いよ」
「先輩趣味悪いかも」
「じゃあ、男の趣味も悪いってことでいいかな」
「せんぱい…」
「うそうそ、冗談だから」

楽しい時間はあっというまに過ぎて、夜のショーの時間。
帰りが遅くなるといけないから、片方だけ見ることにした。
19時過ぎに、場所取りをしようと移動中、携帯が震える。
掴んでいた彼の腕から手を一旦離し、ポケットの中を探る。
…なんだ、友達からのLINEだ。
デート楽しんでる?お土産よろしく、なんて。
そっか、お土産買わないとな…って思いながらもハッとする。

彼がいない。

腕というよりもコートの袖を掴んでいたから
歩くと人にぶつかるようなこんな状態では、わたしが離れたことにも気づかなかったんだろう。
慌てて周りを見渡すけど、あの目立つ長身が視界に入らない。
次のショーはエントランスから入って目の前に広がる水上で行われる。
とりあえずそっちに移動しないと…
少しずつしか行きたい方向に進めないもどかしさ。

やっとのことで目的地にたどり着いたら、ショーが始まる数分前になっていた。
前後左右を見てもやっぱりいない。
求めてもいない人の塊がどんどん押し寄せてくる。
人にこんなに囲まれていても心細いなんて。
じわっと、らしくない涙が滲んできた。

その時、わたしと同じ名前を叫ぶ声。
あの声はまさか。
声のする方に徐々に近づくと、

「見つけた!」

周りより頭1個分飛び出た心配そうな表情。
目が合うと、人混みの中を「スイマセン」と言いながらこちらに来る。
そして涙目になっていたわたしの手を取ると、
冷たいなーと言いながらもう片方の手を重ねて温めてくれた。

「どうしたんですか、先輩らしくないッスよ、そんな顔」

ニコッと笑って、いきましょ、と手を引く。
まるでお母さんとぐずっている幼稚園児のよう。
しかも、これじゃあいつもと立場が逆転している。
しっかりと繋いだ手に安心して、一粒涙がこぼれたのは、内緒。


ショーはすごくきれいだった。
でも、暗い中に時々浮かび上がる彼の横顔の方が何倍も魅力的で
何度も何度も盗み見た。
いや、正確には彼を見ている間にショーを盗み見た、と言ってもいいと思う。

ショーが終わった後、最後にスーベニアショップに向かった。
クリスマス限定のペアストラップを買う。
これはわたしからのプレゼントで、とブルーの方を渡した。
すると、

「俺がピンクの方つけます。先輩の代わり!」

屈託のない笑顔で交換されてしまった。
この人は、何から何までわたしの心を奪わないと済まないようだ。

出口に向かう途中、さっきの迷子騒動について話しだした彼。

「もうはぐれないでくださいね。
本当に心配だった。LINEしても電話しても反応ないし…」
「ごめん、携帯で連絡取れるってことすっかり頭から抜けてて」
「まあ、そんな先輩も好きですから」

その言葉に、海風で冷え固まった頬が緩み、熱を持つ。

「今度から、特にこういう人の多いところではずっと手、繋ぎましょう」
「そうだね、そうする」
「泣きそうになってる先輩、可愛かったなぁ〜」

精一杯の強がりでジロッと睨んだら、冗談ですって、と慌て出す彼。
そしてその後ポツリとつぶやく。

「どんな先輩も好き。でも…笑ってるのが一番いいな」

さっきこっそりこぼしてからは隠しておいた涙が
もうセーブできないところまでこみあげてきた。

「先輩、メリークリスマス。
今日は楽しかったですか?俺、先輩のサンタになれましたかね?」

そんな無邪気な笑顔を見たら、もう我慢できなかった。
エントランスの地球儀のオブジェの前、彼の胸に飛び込む。
背中に腕を回して涙でぐちゃぐちゃの顔を、彼の胸元に押し付ける。
頭を軽くぽんぽん、と撫でられた後。

先輩、顔上げて。

長い体を折り曲げて、触れた唇。
冷えきった体が一瞬で熱くなった。
流れた涙が頬を伝って口元に流れると、
しょっぱいキスも悪くないですね、と笑う君。

一生解けない恋の魔法がかけられた瞬間、かもしれない。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ