twitterであげていたおはなし。2

□OGマネとのお話。
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おにぎりを食べながら、彼が唐突に話題を振る。

「なあ、クリスマスどうしようか」

できるだけ避けていた、その話題。
恋人がいるとはいえ、相手は受験生だ。
彼は、自分がスポーツ推薦が難しいことを承知していたから
早々にセンター試験を受けることを決めていた。
あと1ヶ月もないのに、こんな時期に時間を奪うなんてできない。

「何もなくていいよ。衛輔受験生だし…」
「たった1日、それも数時間だけだろ。
その分、前もってたくさん勉強しておくし、その後も死ぬほどやるよ」

気持ちだけで十分だったけれど、少しでも会えるのは素直に嬉しい。
いいの?と聞くと、大丈夫だから、信じて、と。
体は小さくても、この人は本当に強く頼もしい。

「お前…夢の国とか、行きたい?」
「あ、それなんだけど、休憩の時にリエーフくんが彼女さんと行くって自慢してきたよ。
どっちのパークかはわかんないけど…」
「クリスマスにあいつと鉢合わせは絶対ダメだな。夢の国、却下」

その言い方に思わず笑ってしまった。
わたしにつられて彼も同じように笑う。
こんな些細なことでも温かく幸せな気分になる。
そばにいるって、いいな。



結局、クリスマス当日
わたしたちの姿は湯島天神にあった。
受験生には超メジャーなお参りスポット。
ベタだけど、勉強時間を割いてくれた分
ここでお参りすることで彼のプラスになればいいな、と思った。

お賽銭を入れて手を合わせ、彼の合格を願う。
隣の彼が、もういいでしょと止めるくらい真剣に。

帰ろうとしたら彼がさっきとは違う方向へ歩いていく。
待って、と小走りで追いついて腕を掴んだ。
その先にあったのは夫婦坂。
階段をずんずんと下りていき、途中の踊り場まで来た時。

「お前、二段下に立ってよ」

急に何、と思ったけど言うとおりに下がる。

「下がったよ?」

振り向いてそう声をかけたら、がばっと抱きすくめられた。
階段で危ないし、今は人がいないけれどいつ人が来るか…

「ちょ、危ないからさ」

そう言っても離してくれる気配はない。
観念して、肩の力を抜いて彼に身を任せた。

耳元でボソッと聞こえたのは。

「俺だって一応、気にしてはいる。
お前よりちっちゃいってこと」

……それで、二段下がれなんて言ったのか。

「気にしすぎてたら余計カッコ悪いよな。
でも、ここじゃないとこういう風にできないと思ったから
悪いけど、もう少しこのままでいて」

わたしのマフラーに顔をそっとうずめてくる。
言われてみれば、外で抱き合うことなんてなかった。
したとしても、彼がわたしにしがみついているみたいになってしまうだろう。
この二段差はちょうどいい。

「俺が、タッパもあってバレーがすげえ上手かったら…
黒尾みたいに推薦もらえたんだけどな」

きっと勉強ものすごく頑張って、疲れちゃったのかな。
ちょっとだけこぼした本音。

「バレーで食っていけるはずないから、大学行くなら勉強するしかない。
絶対に受かる。何が何でも」

弱音の後に見せた、力強い闘志。
がんばれ、の意味を込めて背中をポンポンと優しく叩く。
体が離れかけたかと思った刹那、唇があたたかいものでそっとふさがれる。
緩められた腕に、完全に油断していた。
前はいつしただろうか…思い出せないくらい前かもしれない口づけ。

勉強に必死であろう彼を邪魔しないように、と
会えない寂しさを他のことで紛らわせていた気がする。
でも、やっぱりこうして生身の彼と会って、話して、触れ合う以上に
心の隙間が埋まることはないんだ。
そしてきっと、彼も同じように思ってくれてる、って感じた。

「……これで、また頑張れる。ありがと」

桜の咲く頃には、迷いや悩みのない、心からの笑顔が見られるといいな。
手を繋いで下りた階段。
狭い小道を歩きながら彼がつぶやく。

「お前と同じキャンパスで、こうやって歩くから」

…知らなかった。
同じように、どころか思った以上に
彼はわたしに首ったけだったのだ。

早く春、来ないかな。
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