twitterであげていたおはなし。2

□山口に恋するクラスメイトのクリスマスのお話。
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そして、24日、午後7時。
自分の部活を終え、制服姿に戻ったわたしは
かれこれ2時間、部室棟の横でうずくまっていた。
バレー部のクリスマスパーティーとやらは、一体いつ始まっていつ終わったんだろうか。
部員のみんなもこの後家族と過ごすだろうし、さすがにこんなに夜遅くまでは…
と思ったけれど、一向に彼の姿は見えない。
坊主頭の先輩とか、オレンジ頭の同じ1年生が跳ねるように帰っていくのを
わずかに上げた顔で確認した。

逆方向からもう帰っちゃったかな。
でも、約束してたわけじゃないし。
……そもそも、彼女じゃないし。

勝手に待っているだけなのに、こんなにイライラ、そわそわしている自分。
もし運良く彼に見つけてもらえたとしても
顔の筋肉は固まってるし、きっと可愛い笑顔はできていないと思う。

寒くて、寂しくて、苦しい。
涙がこぼれてマフラーを濡らす。
この気持ちを楽にしてくれるのはたったひとりだけ。



頭に一層冷たい感覚。
……雪だ。
はらはらと空からこぼれ落ちてくる。
ホワイトクリスマスとは、なんてロマンチックなんだろう。
大好きな人と過ごしている人にとっては、最高の贈り物なんじゃないかな。
でもひとりのわたしにはただ残酷。

「お先に失礼しまーす!」

その声にハッと顔を上げる。
部室棟に目をやると、彼と月島くんが部室から出る姿が見えた。
よかった、まだいたんだ…
そう思って彼の元に足を運ぼうとするけど、冷えからかうまく動かない体。
立ち上がれずに震えていると、

「……山口」
「なに、ツッキー」
「あれ、うちのクラスの…」

月島くんがわたしを指差している。
視線を月島くんからその指先、そしてわたしに動かした彼は
心から驚いている様子だった。
駆け寄ってくる彼と、その後ろからのんびり来る月島くん。
慌てて涙の跡をこすった。

「ど、どうしたの!?こんなところで…風邪、引いちゃうよ!」

しゃがみこんでわたしと目線を合わせてくれる。
ちょうどいい言葉が見つからなくて、口をぱくぱくさせていると、
後ろにいた月島くんが…彼を指さした。
頭がいいから、勘もいいんだろう。
わたしは、こくりと頷いた。

「…山口。僕、先に帰るから。家族が全員揃う日だし。じゃ、また明日」

月島くんはスタスタと夜道に消えていった。
ツッキー待って、と言いながらも彼はわたしの前から動かずにいてくれた。

神様と月島様がくれた大チャンスだ。
鞄の中をごそごそと探った。

彼女じゃないから、玉砕してしまったら…
そんなことも考えたけど、やっぱり渡したいものは渡したい。
メタリックシルバーのラッピングを取り出して、彼の胸に押し付けた。

「え……これって」
「山口くんに。メリークリスマス」

それだけ言って、マフラーで半分顔を隠しながらリボンをほどく彼を見つめた。
中から出てきたマフラーを手にすると彼は

「いいの?俺がもらっても」

ああ、鈍いのかな。
でもそんなところも好きです。
伝われ、わたしの気持ち。

「…好きだから。もらってくれる?」

顔を隠したままだから、くぐもった声になってしまった。
でもちゃんと届いたはず。
怖くて顔は見れないから、地面を見つめていた。

すると。

頭にあったかい感覚。
……手だ。
そろそろと顔を上げると、わたしの頭にそっと手を乗せた彼がいた。
ニコッと笑いかけた後、頭上から離れていった手は
代わりに目の前に差し出された。

「立てる?…帰ろうか」

掴んだ手はわたしより少しあったかくて、思ったよりも大きい。
そのまま手を繋いで歩き続け、校門を抜けた。

繋いだ右手、そのわずか前方に彼は居続けてくれている。

「山口くん、あの…」

聞きたいことが多すぎた。
なぜあんなふうに優しく頭に手を乗せたのか。
手を差し伸べてくれたのか。
…そして、どうして今もまだ手を繋いでくれているのか。

どれから聞いていいのか、そもそも聞いてもいいのかと悩んでいるうちに
彼がポツリ。

「この前さ、クリスマスパーティーのこと、教室で聞いたよね?」
「あ、うん……」

覚えてたんだ。
何気なく聞いた(あくまでもわたしの中では)だけなのに。

「24日なの?としか言われてないのに、
俺、大体の時間帯まで言ったと思うんだけど…」

そう言われればそうかも。
…ん?

「図々しいと思うけど、期待しちゃったんだ。
君が…待っててくれたりなんかしたらなぁって。
まさかあんなところで座り込んでるなんて想像もしてなかった。
パーティーは6時に終わっててさ。
1時間も先輩につかまっちゃったのも、想定外だったんだけどね」

ちょっと待って。
それって…つまり。

「山口く」
「…ごめん、ちゃんと言うからもう少し待ってくれる?
俺、今…君の顔マトモに見れない」

あげたばかりのマフラーに、さっきのわたしみたいに顔をうずめてる。
次に聞ける言葉は多分、最高のクリスマスプレゼントに違いない。

早くこっちむいて聞かせてくれないかな。
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