twitterであげていたおはなし。2

□特別な指(社会人岩ちゃんのXmasのお話)
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リボンをほどく時のあの高揚感は、きっと何歳になっても変わらないものだろう。
でも、たった今目の前に現れたのは…目を疑うようなもの。

「なに、これ?」

訝しげな声が出たのも当然だと、世間の女子に共感してもらいたい。
袋の中から出てきたのはぬいぐるみ。
わたしに向けて惜しげもなくウインクし、両手はダブルピースといった出で立ちだ。

贈り主の方に向き直り、率直な感想を述べる。

「なんかこのウインクとかポーズとかさぁ、及川みたいなんだけど」
「…!」

彼はハッとした表情の後、頭を掻いた。

「そんなつもりで買ったんじゃねえよ、偶然だ。
でもそんなこと言われると…ぶっとばしたくなるな、それ」
「ぬいぐるみ相手に大人げないよ」
「お前がそんなこと言うからだろ…」
「はいはい、せっかく選んでくれたんだもんね。可愛いよ、これ。ありがとう。
でも、はじめは、相変わらずセンスがないなあ。わたしもう27なんですけど」

うるせえ、とわたしのおでこを拳で軽くコツン。
こんな会話ひとつでも心があったまる。


高校の時からつきあっている彼とは、もうすぐ10年の仲だ。
大学は別々だったけれど、就職は二人とも地元になった。
そして社会人3年目になる時に同棲を始めて、もう2年半以上が経つ。

クリスマスは毎年、家で一緒に過ごすのがお決まり。
手料理をテーブルいっぱいに並べて、ラグマットにぺたりと隣り合って座る。
おなかをゆっくりと満たしながら、時折テレビの中で繰り広げられる
面白おかしい番組に笑い合って、時間が過ぎていった。


彼は、高校時代の友人・及川とは違って女の子慣れしていない。
笑顔を振りまくどころか、及川のファンの前でも「グズ川」「クソ及川」と暴言を吐き
連れ戻すために容赦なくボールをぶつけるもんだから、ちょっと怖がられてもいて。
そんな彼に「俺とつきあってほしいんだけど」と言われた時は
”彼女と手を繋いで微笑み合う岩泉一”が想像できなくて一瞬答えに迷った。
嫌いじゃない、むしろいい奴だと思う。
背も高くて男らしいとも思う。
でも、友達と恋人は違う。
一旦保留にできないかな、なんて言おうとしたら
それよりも先に耳に飛び込んできたのは、

「迷ってくれてるってことは…俺のこと嫌いではないんだよな?
なら、つきあってからでも好きにさせるから。信じてほしい」

この一言に賭けてみたくなって、次の瞬間頷いていた。

彼氏としての岩泉一は、周りから見たら不合格なのかもしれない。
高校も、そして大学に行ってからもバレーばかりでデートはろくにできず、
話題のデートスポットや女の子に人気のもの、世間で流行っているものにも本当にうとい。
サプライズ、なんていうものにも無縁だ。
でも、そんな不器用な彼がくれる言葉だからこそ、いつでも信じることができた。

お前といるとホッとする。
ずっと一緒にいような。
風邪引くなよ。
会いに行ってもいいか?

ロマンチックなセリフではないけれどわたしの心にはちゃんと残ってる。
無駄に飾らない彼が、いつだって大好きだし誇りだ。
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