twitterであげていたおはなし。2

□特別な指(社会人岩ちゃんのXmasのお話)
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「わたしからはね…じゃーん!!」

得意げに、ブルーのリボンのかかった箱を見せる。

「ん?何だろうな」

手に取って、リボンを外すとビリビリと包装紙を破く。
そうそうこれ。絶対にテープからきれいに剥がしたりなんてしないの。
こういうところも、可愛いなって思ってる。

「おー…」
「毎日これ着けていって」

選んだのは革のグローブ。
東北の冬は生半可な寒さじゃない。
生まれ育ってきたから十分知っているはずなのに、平気だ、といつも素手でいる彼。
その手を、わたしがいつもあっためてあげられるわけじゃないから、せめて代わりにこれで。

「あったけーな。サンキュ。明日から使うわ」

早速身につけた彼が目を細めて笑った。
明日から彼の通勤に自分の身代わりにこのグローブがお供する。
それだけでうれしかった。
なのに、グローブを外した後、急に真面目な顔を見せる。

「でも、もっと欲しいものあるんだ」
「え、何?わたしがあげられるもの?」

わたしの言葉を無視して、床に落ちていた、ぬいぐるみの袋を閉じていたリボンを右手に。
そしてもう片方の手はわたしの左手をとった。

「プレゼントにはリボン、巻かないとだろ」

左手薬指に巻かれ、結ばれた赤いリボン。
まさかの展開に、声が出ない。
意味、わかってるよね。
この指は、一番わたしを期待させる特別な指だ。

あぐらをかいていた彼が、正座し直してから深呼吸。
お酒はまだ飲んでないけど赤いのは、きっとこれから紡ぐ言葉への緊張。
太ももに置かれた拳が音を立てそうなくらいギュッと握られるのが見えた。

「プレゼントは…お前がいい。
いっとくけど、やらしい意味じゃねえぞ。
今だけじゃなく、何年先だって幸せにしてやる。
…俺には、お前しかいないと思ってるから」

何年先も。
その言葉で確信した。
ロマンチックなことなんて何一つしてこなかった彼が
年に一度のこの日に、人生の中でも最大級の決意を伝えようとしてくれている。
目頭が熱くなって、次第に彼がぼやけて見えた。

「…俺と、結婚してくれ」

涙腺が一気に弱まる。
涙でぐしゃぐしゃになりながら、何度も頷いた。

「…おい、せっかく言ったんだから、何か…言えよ」

そんな彼の声にも応えられないほど、涙と嗚咽は止まらない。
言いたいことは山ほどあるのに…
そんなわたしを抱き寄せる彼。
ぐずぐずと鼻水をすすりながら、広い胸にすがりつく。

「指輪、今度一緒に買いに行こうな」

うれしいお誘いに、やっと出せた声で、うん、とようやく伝えて
顔を上げてお返しのキスをした。
ありがとうと大好きの気持ちを込めて。
長いキスの後、一旦離れて二人で笑い合う。

「岩泉、になれるのかあ」
「うれしいか?」
「うれしいに決まってるよ!」

単純だな、と言いながら
頬の涙の跡を優しく撫でる彼。
もう一度顔が近づいた時、わたしの目の端にちらついたのは。

「ねえ、はじめ…こっち見てる」
「何が」
「ぬい川さん」

床に置いてあった、及川風味のぬいぐるみ(ぬい川さん、ととっさに名付けた)が偶然にもこちらを見ている感じになっていた。
彼はぬいぐるみを手に取るとポイッとテーブルの向こうに投げた。

「あ」
「これで、邪魔者なしってことだな」

そう言うと再び唇が重なる。
ねえ、10年間で何回のキスをしたかな。
これからも数え切れないほどしてくれるって、約束してね。
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