twitterであげていたおはなし。2

□大地さんと過ごす年末年始のお話。
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ハッと目覚めたら、目の前には空のどんぶりが二つ並んだままのテーブル。
隣には彼がいて、いつのまにか二人で毛布にくるまってた。
時計を見ると朝の五時。
年越しを迎える前に寝てしまったみたい。
しかも、床に座ったままで。

今日から新年、そしてあと数時間後には仕事だ。
彼に毛布をかけ直して一人シャワーを浴びに行く。
座ったまま寝てたからか体の節々が少し痛いけれど
いつもは日付が変わってからも起きてることが多いからか、
ぐっすり寝られて気分がすっきりしていた。

髪を乾かして部屋に戻ると、彼が起きていた。

「おはよう、大地もシャワー浴びる?」
「俺は昨日、お前帰ってくる前に風呂入ったから大丈夫。
寝落ちするかもなってちょっと予想してたし」

さて、着替えようかと思ったら。

「なあ、今から初詣行かないか」
「えっ、だってわたし今から仕事…」
「実は昨日、車で来てたんだ。
お前を職場に送るつもりだったからさ。
だからワインも飲まなかったんだよね」

そんなこと考えてくれていたなんて。
じーんとしていたら、彼の一言。

「お前の職場に行く途中にあったろ、神社。
そこに寄ってから送り届けるから。はい、支度!」



神社は、早朝だというのに割と賑わっていた。
二人でお参りし、手を合わせる。
何年も一緒にいるけど、そういえば初詣は初めてかもしれないな。

(今年もふたりで、笑って過ごせますように。)

目を開け顔を上げると、ワンテンポ遅れて顔を上げた彼。

「大地は何お願いしたの?」
「秘密」
「えー、ケチ」
「神様だけ、知ってればいいんだよ」

おみくじはふたりとも”吉”だった。

「まあ、ほどほどに幸せってことでいいんじゃないか。
欲張り過ぎはよくないしな」

そう言って二人分のおみくじを木の枝にくくりつける。
今年も、いい年になりますように。


さっき買った缶コーヒーを飲みながら運転する横顔を眺める。
何年も、何度もこの角度から見てきたけれど
運転している時の顔ってなんか好き。
今日が休みなら、もっと一緒にいられたのにな…
逆を向くといつも通勤で乗っている電車が目に入った。
駅が近いからか速度を落とした電車をすーっと追い抜いて
道路を滑っていく感覚に、ちょっと得した気分。

いつもの出社時間より少しだけ早めに、職場に着いた。
ガラ空きの駐車場で途切れるエンジン音。
シートベルトを緩める彼。
コートを羽織り、鞄を手に取ったわたしがドアを開けようとすると。

「ちょい、待って」

腕を伸ばして制止された。
と思ったら。
そのまま唇を奪われた。
静かに離れていくと、ほんの少し照れくさそうに

「昨日、してなかったから」

とつぶやいた。
昨日はラーメン食べて、いつのまにか寝ちゃったもんなぁと
彼女らしいことをできていなかったことを反省した。
彼へのプレゼントは、そう言えば部屋に置いたままだし。

「ごめん…昨日結局お祝い、何も…」
「おめでとう、って言ってくれただろ。
それに一緒に過ごせたことが十分お祝いだから」

優しい言葉の後、彼の顔がきりりと引き締まった。

「来年も、再来年も、こういう風に一緒にいられたら
それだけで俺は、嬉しいよ。
さっきも神社で…お前とまた一年、笑って楽しく過ごせたらって祈ってたし」

同じ時、同じことを思っていたんだね。
…やっぱり隣にいるのは、ずっと、この人がいい。

サイドブレーキがちょっと邪魔だけど、そっと体を寄せて彼に抱きつく。
安心するこの感覚。
次に味わえるのはいつかなぁ。
なんて別れを惜しんでいたら。

「正月終わって落ち着いたら、また家、行くから。
そん時に置いてきたワイン一緒に飲もうな」

頷いたわたしの頭をそっと撫でる。

「仕事、頑張って来い。
次に会う時に、たくさん甘やかしてやるから、さ」

鞄を手に取りドアを開け、車を降りた。
ドアを閉めた後、再びエンジン音がかかった車を見送ろうと立っていると
彼が口パクで何か言ってる。
その一文字ずつをゆっくりと読み取ると。

あ い し て る

わたしのハッとした顔を見ると、片手をあげてからハンドルを切り
あっさりと去っていった。

ずるいよ。
今までそんなこと、言ってくれなかったじゃない。
好き、大好き、よりも重みのある単語。

ガラス越しじゃなくてちゃんと聞かせてね。
わたし、待ってるから。
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