twitterであげていたおはなし。2

□受験勉強の気晴らしに、バッティングセンターに行くお話。
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「すいませーん」

かすかに聞こえた声。
お母さんがパタパタとスリッパの音を立てるのが聞こえた。
そして、会話をしているような声が続く。
来客と話が弾んでいるようだ。
さて、わたしはぼんやりタイムもそろそろやめて次の教科に取り掛かろうか。そんな風に思っていたら、部屋をノックする音。

「はーい」

振り向かずに返事をすると、ガチャリという音の後に

「やっぱり、勉強してたのか」

その声に振り向いたら、顔だけひょこっとドアの陰から出した要だった。

「母さんからおすそ分け持ってきておばちゃんに渡したらさ、
部屋にこもってるって聞いて。悪いな、邪魔した?」
「ううん、平気。ってかなんで中、入らないの?」
「いや…一応女の子の部屋だし」
「ふーん、まあいいけど。で、どうしたの?」

わたしの質問に、予想もつかないことを言い出した。

「バッセン行かない?」
「うぇっ!?」
「お前、根詰めてるみたいだし、息抜きにどう?」
「んー……じゃあ、ちょっとだけ行こうかな」
「決まり。そしたらコート着なよ。
…おばちゃーん!ちょっと借りるね。夕飯までには返すんで」



今まで友達と遊び断ちしていたのにどうしてこうもすんなり誘いに乗ってしまったんだろう?
気づいたら市内にある複合アミューズメント施設に来ていた。
冬休みだからか家族連れもちらほら。
一直線に連れて行かれたバッティングコーナーには誰もいなかった。

「ラッキー、貸切状態じゃん」

そう言って自前のバットの片方をわたしに渡す。彼は小学校まで少年野球をやっていた。中学ではバレー部だったけれど、昼休みに野球部と遊びで試合しているのも何度か見たことがある。
バレー部の人にバッティングに誘われるってなんか不思議な感じ。

「野球部の奴が、残ってるのあげるって言って、くれたんだよ」

ゲーム用のプリペイドカードをちらつかせる。
打席は球速ごとに7打席あるけれど、彼は変化球ミックスの3番打席に立った。
わたしは壁を隔ててその様子を見る。

「久しぶりだな〜打てるかな」

そう言いながらも目はきらきらと輝いている。
飛んできた球を振り切ったバットが掠めた。

「あー、惜しい。なまってるな」

その後も何度もバットを振り続け、何本か、実践ならセンター返しだろうという当たりも出た。
20球と戦った彼はすっきりした面持ちでわたしに笑いかける。

「次、お前の番」

子供や女性向けに球速が一番遅くなっている1番打席を選んで立つ。
バットを握ったのなんて何年ぶりかな。

「お前、小学校の時俺らに混ざってやったことあったよな」
「まあね」
「とりあえず、振ってみ」

言われるまま、投げ込まれた球に当てるつもりで思い切りスイング。
でもボールは壁に直接当たり、バットは虚しく空を切った。

「大丈夫、できるから」

その言葉に押され、さっきより肩の力を抜いて振ってみた。
何球来ても、なかなか当たらない。
くやしい、とムキになり始め残り数球になったその時。
バットの芯にとらえられたボールが弧を描いて飛んでいった。

「要!見た、今の?」
「うん。やるじゃん。その調子だよ」

その後2回ほどヒット性の当たりを出して1ゲームが終了した。
額にじんわりと汗が滲んできて、体がほかほかしているのがわかる。
手をパタパタさせて扇いでいるわたしからバットをもぎ取り、

「お疲れ。休憩しよっか」

前後に並んで自動販売機に向かった。
すぐ横のベンチに腰掛けて並んで喉を潤す。
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