twitterであげていたおはなし。2

□西谷先輩と後輩ちゃん
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それからは土曜の部活の昼休憩とか、全体練習が終わった後
西谷先輩はわたしの自主練に根気よくつきあってくれた。

土曜の夕方は一緒にアイスを食べながら帰るのが定番。
最初はオゴれよ、なんて言われたからそのつもりだったのに
いざとなると先輩は「オゴってやるよ、先輩だからな!」と言って
毎回、自分のお気に入りだというソーダ味のアイスをオゴってくれた。
まだ熱のこもっているアスファルト、その上を歩きながら
「食うの遅えな、溶けちまうぞ!」なんて言われながら帰るのも
楽しみのひとつになっていた。

男子部員はおっきい人が多くてちょっと話しかけるのに勇気がいるけれど、
先輩は目線も近くて(身長を気にしてるから言えないけど)、親しみやすい。
向こうから話しかけてくれるのも優しさかなぁって思う。

それは自主練や体育館を離れても変わらなくて、
わたしの教室に顔を出して昨日のバレーのTV中継の話をしたり、
廊下で会うと必ず、元気か〜?と声をかけてくれたりもする。
兄弟姉妹のいないわたしにとっては、まるで兄ができたみたい。
先輩と過ごす時間は楽しくて、いつもあっというまに感じる。



昼休み、次の授業のために教室を移動していた。
通る廊下には、先輩の教室がある。
のんびり歩き、なんとなく3組の教室を横目で見ると…

いたいた。

部活中に見せるのとなんら変わらない元気な姿。
机の上に座って足をブラブラさせてる。
どんな話してるんだろうな、って思っていたら、

「西谷、お前あの女バレの子さぁ」

その声にドキッとして、足が止まる。
女バレの子、と言われると名指しではなくても
相手が西谷先輩だからか、もしかして自分のことなのではないか、と勝手に思い込んでしまう。

「本当に仲いいよな」
「ん?ああ、俺の弟子、だからな!」

確定だ。これは、わたしのことを話している。
授業に遅れてでもいいから…聞きたい。
わたしのいないところで西谷先輩が話すわたし、とは。
気になってしょうがなかった。
扉の影に身を潜める。

「あの子一生懸命だよな。俺、たまに外周帰りに体育館通りかかると
休憩中も一人でやっててさ」
「それ、俺も見たことある」
「西谷と練習してるのを見かけた時も、本当にバレー好きなんだなって感心したよ」
「お前ら、兄妹みたいだよな。
いいな〜俺もあんな風に慕ってくれる妹欲しいな〜」

二人の、名前も知らない先輩にそうやって話されていると
何だかちょっとした有名人になっているみたいで気恥ずかしかった。
そして、わたしが勝手に兄みたいと思ってただけなのに
第三者がわたしたちを「兄妹みたい」と評してくれているのがうれしかったのも事実だ。

西谷先輩は二人の会話を聞いた後、
さっきまで笑ってた時の大口とは打って変わって
小さく口を開き、友達二人に何やらボソッと一言放った。
それを聞いた彼らは面食らったような表情をしている。
こっちからは何も聞こえないので、頼りになるのは三人の表情だけ。
もっとよく見たい、そう思って思わず身を乗り出したら

ガタッ

勢い余って教室の扉を外してしまった。
その音に反応した三人がこちらを向き、ばっちりと目が合う。
近くにいた二年生が助けてくれて扉は元通りになったけれど
存在を知られてしまった以上、ここにはいられない。
ぺこ、と頭を下げて移動先の教室に向かう。

「待て!」

後ろからガッと掴まれた肩に緊張が走る。
振り向かなくても、誰がそこにいるかなんてわかっていた。
わたしの目の前にまわった先輩は、ちょっと険しい顔。

「…さっきの、聞いてたのか?」
「え、あ、ごめんなさい…勝手に…」

強い口調におろおろしていると、

「……どこからどこまで、聞いてた?」

と言われる。

「えと…わたしのこと話してたみたいで、それで…西谷先輩と兄妹みたい、って言われてて…」
「そっから先は?」
「聞こえませんでした」
「…本当か?」
「はい、本当です…」

開いた唇から、はぁ、とため息がこぼれるのが聞こえた。
盗み聞きなんて趣味の悪いことしてしまって、呆れられてるのかな。

「…なら、いい」

あっさりとした一言を残して教室に戻っていく。
何がいいのかわからない。
モヤモヤした気持ちが雲のように胸にどんよりと浮かぶ。
いつもオープンに何でも話してくれる先輩らしくない。
授業のことも忘れておっかけた。

「西谷先輩!」

学ランの裾を掴むと先輩は振り向いて、何だよ、とそっけなく言う。

「何もよくないです!さっきの、どうしたんですか?」
「だから、いいって。気にすんなってば」
「気になります!だって先輩、いつもとなんか違うから…」

うーん、と眉を寄せうなってから、先輩は廊下の端にわたしを誘導した。

「もう、隠すのしんどいから言うけど」
「…はい?」

強い視線がわたしを射抜く。
耳まで真っ赤になっている。
こんな表情の先輩は、見たことがなかった。

「俺な、お前のこと好きなんだ」

あまりにもはっきり言われすぎて、リアクションがとれなかった。
結構大きめの声だし周りにも聞こえてたんじゃないかと思ったけど
先輩はそんなの全然気にしていない様子。
こんなに簡単に言うってことは…つまり。

「わたしも好きですよ。だって先輩といると楽しいですしね」
「バカ、そういうのじゃねえ。恋愛対象として見てるって意味の『好き』だ!」

思いがけない本気の告白に返す言葉もない。
時間ねえから簡潔に言うぞ、と先輩。

「さっきダチに何言ってたか、お前聞こえてなかったんだよな」
「はい、そうです」
「あいつらが、お前のこと妹みたいだって言うから。
『俺は妹だなんて思ってない。普通に、惚れてる』って言ったんだ」
「…!」
「その顔。全然気づいてなかったんだな。ま、仕方ねえか」
「…」
「気にすんな。男扱いされないのは慣れてる」

予鈴が鳴り響く中、じゃあな、と手を振って目の前の教室に戻る姿を見つめていた。
教室に入ろうとする瞬間にこちらを向く。
そして、廊下はおろか他の教室にも聞こえてしまうくらいの大声で。

「これからは、手加減なしだ!全力で行くから覚悟しとけよ!」

満面の笑みと共に心に焼きついた言葉。
本鈴が鳴っていると気づくまで、その場から動けずにいた。
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