twitterであげていたおはなし。2

□同い年の彼女とケンカ(大地さん視点)
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「大地、いい加減さぁ…折れたら?」

昼休み、カフェオレを飲みながら俺を諭す声。
いつもならこの時間一緒にいるのは、
時々辛辣だけど信頼の置ける副主将ではなく、肩まで伸びた黒髪に小動物のような丸い目を持つ彼女、なのに。

「折れるっていうか…元はと言えばあいつが」
「はいはい。お互い似た者同士、ってことか〜」
「俺は正論を言ったつもりだし、大体あいつは頑固だから…」
「早く、仲直りした方がいいべ?部活の時も影響出ない自信あんの?」

スガはこういう時、俺に結構厳しい。
同じ教室の片隅に目をやると、友達と談笑する彼女。
ここ最近、俺には見せることのない笑顔に目が釘付けになる。
いや…そもそも顔を合わせることすら難しい状態だった。

「…なぁ、そんな恨めしそうに見るのやめなって。
こういうこととなると女々しいっつーかなんつーか…しっかりしろよ!」

予鈴が鳴り、呆れ顔のスガに背中に一発バシっとお見舞いされ、自分の席に戻る。
目の前には、高い高い壁…とは言っても伊達工の鉄壁みたいなのじゃなくて
俺よりも断然小さい、けど頑ななオーラを放つ背中。
目下ケンカ中の彼女は、皮肉にも前の席だった。



女子ってグループ行動が好きだし、馴れ合う生き物だと思っていたから
いつでもはっきりと自分の意見を言える彼女を「かっこいい」と思った。
前に廊下で隣のクラスの男子がたむろして道を塞いでいた時。
普通の女子なら、横の教室の中を通らせてもらって迂回するか、黙ってどくのを待つか
小声で申し訳なさそうに端を通るものだろう。
しかもろくに話したことない強面の奴が揃っているとなれば。
それなのに彼女は

「ねえ、端に寄って。みんなが通れなくて困ってるから」

と清々と言ってのけた。
一瞬睨みをきかせた男子にもひるまず、むしろ笑顔で

「はい、聞こえたね?移動〜」

そう言いながら彼らの背中をぽんと叩き、思惑通り強引に端に纏めあげてしまった。
男子が言い返せず荒い手段に及ばなかったのは、
きっと彼女の笑顔にやられてしまったからではないかと思う。
かくいう俺も、その笑顔に魅了されている一人だ。
可憐な見た目にそぐわない大胆な行動力と度胸は、彼女の好きなところでもある。
その反面、ケンカの元凶にもなっているんだが。


つい先日、夏休みの話になった。
高校最後の夏休みともなれば思い出を作りたいと思うのは当然で。
でも俺はインハイを終えた後も春高を目指すと決めたから、
去年までと同じようにほぼ部活漬けの毎日になる。

「ねえ大地、二人でどっか行こうよ」
「部活、休みあればな」
「お盆は休みなんじゃないの?夏休み中に体育館の点検日もあるって…」
「ないことはないと思う。でもじいちゃんの家行ったりとか墓参りもあるだろうし」
「…」
「落ち込むなって。会えないことはないよ。ちゃんと時間作るから」
「……たい」
「…え?」

最後の言葉は語尾しか聞き取れず、聞き返すと。

「二人で、泊まりで出かけたい」

彼女ははっきりとそう言ったのだ。
言われて嫌な気持ちにはならない、いや、不快になる男なんていないだろう。
でも俺らは受験生だし、俺は部活もまだあるし。
何より親に養ってもらっている身で、勝手に外泊するのはどうかと思った。

「それはさ、来年お互い大学生になってバイトとかするようになったら行けばいいだろ」
「今がいいんだもん」
「それに、金はどうすんの」
「お年玉と、お小遣いあるからそれで行く」

折れそうにない彼女に頭を抱えた。
好きなことや興味のあることに対しては、
言いだしたら、計画を立てて必ず実現させようとする。
有言実行って言葉がこれほど憎いとは。

「今、無理して行く意味なんてないだろ。冷静になれよ」
「大地は行きたくないの?」
「そりゃあ、行けたらいいなと思うけども…」
「じゃあ決まりね。わたし、考えとくから!」
「お前なぁ…他にもっと大事なことあるだろ?受験だってあるんだし」
「…へえ、大地はわたしと出かけること、大事と思ってないんだね」
「だから言ったろ。今じゃなくても、って。今は受験が」
「もういい!知らない」

俺の言葉を遮って教室を出ていった。
機嫌が悪くなった時の彼女は最悪だ。
それからというもの、意図を説明しようとしても聞く耳を持たないし、
謝ってもぷいと顔を背けてよそにいってしまう。
無視され続けてかれこれ1週間以上経っていた。
平常心でいられず、イライラや焦りが募る。
その間、ひげちょこが弱気発言した時にはいつも以上の力でどついてしまった気がする。すまん。
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