twitterであげていたおはなし。2

□同い年の彼女とケンカ(大地さん視点)
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直接話しかけて拒絶されるのならば、違う方法をとればいい。
授業中ならば、逃げられない。
そう思い、ノートの一番後ろのページを破りペンを走らせる。

書きあげた手紙を彼女に渡そうと背中を軽くつつくけど、予想通り無視された。
なぁ、と小声で呼ぶと一瞬振り向いてから、何?と不機嫌そうな顔。
少し強引かと思ったが、気にしてられない。
腕を掴み、手に紙を握らせてつぶやく。

「読んで」

さすがにこの状況で大声をだしたり目立つ行動はできないと悟ったのか、
おとなしく受け取って前を向く彼女。
まもなく、ガサッと紙を開く音が聞こえたので安堵する。
よかった、読む気はあるんだな。
ノートの切れ端に書いたのは、こんなこと。


『お前の気持ちはわかってる。
俺だって、行けるなら行きたいと思ってるよ。
でもそれは、今でなくてもできることだろ。
もし泊まりに行ったことがバレて親に怒られたらどうする?
つきあいを認めてもらえなくなるかもしれない。
俺はそれだけは避けたいんだ。
このままの状態が続くなんて耐えられない。ちゃんと話そう』


授業が終わると彼女は席を立ち、俺の机にさっき渡したのとは別の
小さな紙切れを置いて教室を出ていった。
恐る恐る開くと、

『屋上、来て』

その一言だけ。
おい、休み時間10分しかないんだぞ?
まあ、すぐ行けるからいいけども…
本当はじっくり話したかったから、部活の後に一緒に帰るとかそういう方向に持っていきたかった。
でもここはおとなしく、彼女の提案に乗ることにしよう。


屋上の鉄扉を開けると柵に背中をもたれかかる姿が目に入った。
夏の熱を孕んだ風がゆるく、彼女のシャツとスカートをはためかせている。
扉を閉める音に反応もせずうつむいたままの小さな頭。
駆け寄ると顔を上げた。

「時間、ないからさ」

いかん、説教くさくなってしまった…と後悔した瞬間、
彼女が胸に勢いよく飛び込んできた。
女の子だから軽いけれども、結構な衝撃にうっと唸った。
でも久しぶりにこんなにそばにいてくれているんだし、と
体に巻きつく腕は無理に外さないことにして頭を撫でる。

「大地…」
「ん?」
「………ごめん、なさい」

強気な彼女からしおらしく謝ってくるなんて、
なんだか新鮮でくすぐったい気分だ。

「ん…俺も、言い方とかきつかったかもな。ごめん」

頭をふるふると振ってから、小さな声で話し出す。
もうすぐ予鈴が鳴る気がしたけど、今はこっちに集中しよう。

「わたしね、大地と同じ大学行けないかもしれないって思って。
勉強頑張るつもりだけど、もしかしたら離れた土地の大学になっちゃうかもしれない。
そしたら一緒に泊まりで出かけたりするの、難しくなるでしょ。
だから今のうちに、って焦ってたんだ」

まだ試験まで半年あるとは言っても、きっと不安でいっぱいだったんだろう。
ぐずぐずと鼻をすする音がした。

「大地が言うことが正しいってわかってたのに、意地張ってごめんなさい。
いつも、わたしのこと、二人のことをちゃんと考えてくれてるのに…
勉強やバレーの方が大事で、わたしのことはどうでもいいと思ってるんだ、って思っちゃった」

まるでタイミングを計ったかのように予鈴が鳴る。
教室、戻ろっか。
そう言った彼女が腕を緩めたから、逆にこっちが強く抱きしめてやった。

「じゅ、授業!」
「まだ、平気」
「…いつもなら、さっさと戻ろうって言うくせに」
「いいんだよ。まだ俺の話、終わってない」

話したいことは山ほどあるけど、一番効果的に伝える方法はこれしかない。
肩に手を添え、そっと口づける。
触れたところから一気に幸福感が流れ込んでくる感覚。
どんなことがあってもやっぱり、そばにいたい。

「どうでもいいなんて1ミリも思ってない。
勉強もバレーもお前も大事だ。今は、順番はつけられない。
勉強は大学出て仕事に就いて、独り立ちすることに繋がるだろ。
そうすれば、ちゃんとお前を迎えにいける。
バレーで全国行って、お前にかっこいいと思われたいっていう気持ちもある。
ワガママだけど、全部がお前に繋がってる、って思ってほしい」

返事がないからちょっと心配になり、腕を緩めて顔を覗き込もうとしたら。

「ぐぇっ」

腹に思い切り手刀をお見舞いされた。

「な、んだよ…」
「あのねえ、これから授業なのに…また泣いちゃうようなこと、言わないでよ!」
「…お前」

スタスタと扉に向かって歩き、振り向くと
腹をさすって顔をしかめている俺に向けて
ほんの少し赤くなった目を隠すことなく笑いかけてきた。

「ありがと!大地のこと、大好きだからね!」

この笑顔を自分の手だけで守るには、俺はまだ力不足。
でも必ず、俺でよかったって思ってもらえるような男になるから。
ケンカのことも、今日のことも…胸にしっかりと刻み込まなくては。

本鈴が鳴り響く中、慌てて彼女の後を追った。
揃って遅刻を怒られるのも、たまにはいいのかもしれないな。

お前とならどんな場所でも状況でも、きっと幸せだ。

前を行く背中に心の中でそう語りかけながら、まっすぐに駆け抜ける廊下。
人生という、これよりも比べ物にならないほど長い道の行き止まりまで
君と、ずっと一緒にいられたら。

…ってちゃんと言えるのはきっとそう遠くない未来のはず。
だから、待っててな。
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