twitterであげていたおはなし。2

□直射と乱反射
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今日は月曜日。
不意に委員会の仕事が舞い込んできた。
彼は部活の休養日だから、運が悪いなーと思っているだろう。
わたしにとっては、一緒に過ごせるからラッキーなのだけど。
みんなが帰った後の教室で二人、いつもよりはのんびりと作業を進める。
今なら、少しは突っ込んだ話をして近づいたり…できるのかな。
そんな気持ちを抱えているせいか、つい手が止まってしまう。

「お前、手がお留守」
「あ…ごめん」
「考えごと、してた?」
「いや、別に…」
「隠さなくていいよ。どうせ好きな奴のことでも考えてたんだろ」

本人に図星なことを言われると、とっさには気の利いた反応ができないものだ。
頭の中でぐるぐる、どう返すのがいいのか答えを探していると、

「いいね〜恋しちゃってんのか。青春だねぇ」

そう言いながら提出資料にシャーペンを走らせている。
彼からこんな話を切り出したくらいだから、こっちもいいよね?

「マッキーは、恋してないの?」
「え?俺?そうだな〜してるかな」

顔は机の上の紙面に向けたまま。
あっさりと白状してくれたことに驚きつつも、
好きな子にはそんなことを堂々と話さないだろうなって思うと切ないものだ。
でも、会話が続くならばと思い切って聞いてみた。

「どんな子?」
「そうだな、小さくて丸顔で、飛んだり跳ねたりよく動く」

挙げられた特徴を自分と照らし合わせてしまうなんて、図々しいかもしれない。
でもわたしは彼に比べたらずっと小さいし、丸顔はコンプレックス。
よく動くかって言われたら…それは、わからないけども。

「その子のこと、大好きなんだね」
「ん。毎日追ってるよ。目でも、体でも」

彼にそんな風に思われる子が羨ましいと思う反面、
口にする特徴が自分に掠っているのではないか、
相手が自分であったらいいのにな、なんて気持ちが膨らむ。
彼の本音がチラリと見えそうな気がして、ハラハラしながら会話を続けた。

「でもさ、なかなか手に入らないんだよね」
「へぇ…マッキーも苦労してるんだね。告白、しないの?」
「自分では、してるつもり。毎日頑張ってんだけどなぁ」
「…その子、彼氏とかいるのかな?」
「うーん…強いて言えば、白鳥沢にいるかもな」

突然出た、県内随一の名門校の名前。

「白鳥沢…?」
「そ。あの学校がこのあたりでは一番、両想いって言えるんじゃないかな」
「え、学校……?」
「俺の想い人はバレーボールちゃんでした」

やっと顔を上げてニヤリと笑った彼が、ピースしてみせた。
…してやられてしまった。
くだらない冗談にも、その笑顔にも。

お前、勘悪いのな、なんて言いながら
再び下を向き資料の空欄を埋めていく、そんな彼が少し憎たらしい。
でもこんなに長く話せて、しかも冗談を言ってくれたのは初めて。
うれしくてしょうがない顔は、深くうつむいて隠した。



資料をまとめ終わり、担当教員のところに二人で提出に行き
さて帰ろうか、となった時に

「何か、飲み物でも飲んでかない?」

前方に見える自販機を指差す彼に、気づいたら頷いていた。
自販機の前に来ると、制服のポケットに右手を突っ込みジャラジャラと音をさせている。
直接小銭、入れてるんだ…なんて新しい発見に気を取られていたら、

「…って。なあ、聞こえてる?」
「はい!?」
「だから、好きなの、選べって」

まさかのオゴリだった。
投入口にどんどん硬貨を入れていき、ボタンが点灯する。

「え、悪いからいいよ…」
「遠慮しない」

そう言うなら…と思いおずおずとボタンを押した。
彼は満足げな顔をした後、自分の分は買わずに背を向けて歩き出す。

「マッキー?昇降口逆…」
「ちょい、部室顔出すわ。及川達いるかもしんないし」

あわよくば一緒に帰れたり…なんて思ってたらするりと逃げていったチャンス。
本日のツキはここまでで終了なのかもしれない。
最後にひとつだけ、と遠ざかる広い背中に勇気を出して問いかけた。

「ねえ、どうしてオゴってくれたの?」

彼の足がぴたりと止まる。
振り向かずにさらりと、

「なんとなく、気が向いたから」

そう言って去っていった。
今のセリフははっきり言って答えになってないけど…

うん。

嫌いじゃなかったら多分こういうことはしないはず。
さっきの、バレーボールに恋してるっていう冗談を含めても
悪くない方向に進んでるって捉えていいんじゃないかな、わたしの恋は。
明日からもちょっとずつ、頑張ろう。
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