twitterであげていたおはなし。2

□お返しは、三倍返し(前編)
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高校に入学し、なんとなく選んだ部活に目を引く人物がいた。
先輩女子達からの黄色い声援を受ける同級生・及川。
確かに整った顔立ちをしているけれど、いかにもチャラそうと思っていたから
あくまでもただの一部員として接していた。
それが恋に変わったのは、何でもない日。

「自主練つきあってもらえる?」
そう声をかけられて、つきあうこと2時間。
とっくに先輩も同級生も帰ってるのに、サーブ練習をやめない。
わたしは転がるボールを必死に集めて彼の元に運ぶ。
黙々とサーブを打ち込む彼は、失礼かもしれないけど
普段のふにゃふにゃした顔から想像できないくらい真剣で気迫に満ちていて。
その姿を、ごく自然にかっこいいと思ってしまった。

初めてのバレンタインデーは、他の部員とお揃いのいわゆる義理チョコを渡すにとどまった。
どうか、どこかの誰かのものにならないで、と切に願いながら。
これから先も同じ部の仲間としてやっていくならば、この想いは伝えるべきではない。
ひっそりと好きでいるというのもいいものだ、と自分に言い聞かせた。



月日は流れ、2度目のバレンタインデー。
わたしが見た光景は。
鞄に入りきらないほどのチョコをもらい、部室でそれを抱えながら
「岩ちゃん、分けてあげよっか?」と言い、幼なじみの岩泉に回し蹴りを食らう彼。
岩泉がホイホイと、くれ、なんて言う訳ないのを彼はわかっているのだ。
「とっととしまえ、ボゲが」と言われ腰をさすりながらへらへらしている。

わたしは、知っている。
どれだけたくさんのチョコをもらっていても
彼は口ではあげようかと言いつつ絶対に誰にも分けたりしない。
全部時間をかけて自分で食べるのだ。


―――遡ること1年前。
運命のいたずらか、こんな日に及川と帰るタイミングが一緒になった。
彼は鞄に収まりきらなかったチョコレートを入れた紙袋を手に提げゆっくりと歩いている。
まるで、わたしの歩幅に合わせてくれているのではないかと錯覚するかのように。
こういうことが自然にできてしまうのがモテるってことなのかもしれない、と少々複雑だった。

「すんなり、帰れるんだね?」

少し皮肉を込めて隣の彼に言う。
告白、呼び出し…絶対に何人にもされるだろうと思っていたから。

「うん、部活終わるの遅くなるってみんな知ってるし、昼休みとか休み時間に何人か来てくれた」

”みんな知ってる””何人か来てくれた”その響きに、好かれ慣れているなコイツ、とイラっとしたが平常心を保ちながら並んで歩いた。

「それにしても、もらったねぇ」
「うん、こんなにもらうと思わなかった」
「マッキーが羨ましがってたよ、あの子甘党だから。分けてあげればよかったのに」
「それは…できないね」

さっきまでのやわらかな口調とは違ってきっぱりと言う。

「だって、買ったのでも手作りでも、俺への気持ちがこもってるんでしょ。
例え彼氏にはなれなくても、それを勝手に誰かにあげちゃうのはひどくない?」

ちゃらんぽらんかと思いきや正論を吐くので驚いたのをよく覚えている。

今年は、部員に配ったのとは別で鞄の中にはチョコレートを忍ばせていた。
去年の話を聞いて、受け取ってはもらえるんだろうと思って用意してしまったけど…
やっぱり彼の負担になるのでは、と差し出せずに持ち帰り自分で食べた。
大体、あんな人気者に告白してもフラれるのが関の山。
はっきりと彼女の存在を聞いたことはなかったけど、期待なんてできるような相手ではない。
マネとしてなら簡単に隣にいることができても、恋人となったら話は別だ。
後日、チョコに飽きたら食べてとおせんべいを渡すと「お前、気が利くね」と笑って受け取ってくれた。

いいんだ、これで。
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