twitterであげていたおはなし。2

□お返しは、三倍返し(後編)
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卒業式を終え、後は仙台を発つその日を待つばかりとなったある日。岩泉から連絡が入り一緒に部に顔を出そうと言われた。

「14日、いいか」
「うん、大丈夫だよ。みんなも来るんだよね?」
「ああ、全員来る」

奇しくもホワイトデー、しかし今年は誰にもチョコを渡していない。よって期待さえもできないのだ。まあ、肝心の相手に気持ちさえ伝えていないんだから当たり前なのだけど。



迎えた14日、お昼前にみんなで駅に集まり一緒にバスに乗る。一番後ろの長椅子はちょうど五人掛け。わたしはその右端に座ったのだが、予期せぬ出来事が起きた。
普段ならど真ん中に座るはずの及川がわたしの隣に腰を下ろしたのだ。でも他のメンバーは特にそれに触れることなく順に座っていく。微妙に触れ合う及川の足や肩に反応せずにいるのは難しく、緩みそうな口元をマスクですっぽり隠すことにした。

「もうすぐ、みんなバラバラなんだよな〜」

何気なくつぶやいたであろうまっつんの一言も今のわたしの胸にはグサリと突き刺さる。大学に行ってからはこうやって集まるのはきっと難しい。

「松川は札幌か。ここより寒いとこ選ぶなんてドMか」
「そういう岩泉は地元残るんだっけ。んで、俺は横浜。及川は東京で…あ、お前も東京だったよな?」

マッキーのわたしへのフリを受けて、及川はそうだったねと笑顔で話しかけてくる。動揺を知られないよう慎重に言葉を選びながら会話を続けた。

「でもわたしは東京っていっても及川と違ってキャンパスは23区じゃないからね。住むのも都心ではないよ」
「それは俺もだよ。都心、家賃高いじゃん」
「寮に入らないの?」
「うん、一人暮らし」

フってきたくせに肝心のマッキーは会話に割り込んでくれない。まっつんは窓にもたれてスマホをいじっているし、岩泉に至っては及川の隣でイヤホンで音楽を聴き始めた。仕方ない、及川と二人で話を続けるかと腹を決めたその時。

「ねえ、今日何の日か知ってる?」

ある意味酷な質問をしれっと投げてくるあたり、本当にずるい奴だ。

「ホワイトデーでしょ」

でもわたしには無縁な日。だって告白もしてないしチョコもあげてない。チョコの代わり、とさえも言っていないからあのラーメンに込められた本当の想いだってきっと及川には伝わってなくて…

「そうだね、正解。賞品にこちらを差し上げます」

そう言うと鞄をごそごそ探って小さな紙袋を掴み、わたしに突きだした。

「えっ、何これ…」
「この前東京に新生活の準備に行った時、見つけたんだ」

受け取った紙袋は見かけによらず少しずしっと重みがある。中身を取り出してみると、ジャムが入っているような小ぶりのガラスの小瓶。その中には無数のカラフルな小さいキャンディーが詰まっていた。よく見たら金太郎飴みたいな感じ。

「色きれいだし可愛いでしょ」
「うん…でも、いいの?」
「この前ラーメンのお返しってことで。ホラ、日付もちょうどバレンタインだったし?」
「ありがと…」

日付、気づいてたんだ。覚えてたんだ。じゃあなおさら、あの夜つきあってくれたことが及川にとってどういう意味を含んでいたのか…知りたい。聞けるはずないけど。

バスは間もなく学校に到着。ぞろぞろと並んで部室に向かう。こうやって並んで歩くのももしかしたら最後かもしれないな。そう思うと一歩がもったいなくて、少しのんびりめに歩いた。
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