twitterであげていたおはなし。2
□お返しは、三倍返し(後編)
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部活が終わり彼らの着替えも済んだ。さて帰ろうかとなった時に岩泉が口を開く。
「俺ら、この後後輩とメシ食いに行くんだ。お前も来いよ」
「遠慮しとく。男同士でワイワイやんなよ」
「お前来た方がみんな喜ぶよ?」
「男だらけより女の子いた方がいいと思うし」
「岩泉が奢るって言ってもダメ?」
「おい、勝手に決めんな」
他の三人も一緒になってわたしを誘ってくれたけど、今は一人になりたい。これ以上及川のそばにいたら余計に苦しくなりそうだったから。
「じゃあね、今日はありがと」
四人をその場に残して一人、バス停に向かった。
平日とは違い土日はバスの間隔が空く。時刻表を見たら次は20分後だった。携帯の充電も少ないし本も持ってきていないから手持ち無沙汰だ。どうしようかな、と思った時ふと思い出した及川からのプレゼントの存在。鞄を探って取り出した小瓶を開け、赤いキャンディーを一粒口に入れる。
甘酸っぱい。いちご…とは少し違うような。さくらんぼ…似てるけども。瓶の周りや底を見たけど成分表示のラベルとかは貼っていない。後で及川に聞こうかな。なんて思っていたら……
「おっ、早速食べてくれてるのかぁ」
肩にポンと手を置いてきたその声の主はまさに及川徹、その人であった。びっくりして瓶を落としそうになる。
「おっ、い、かわ!?なんで!?」
「俺やっぱパスしたんだ。帰るよ」
「主将なのに行かなくていいの?」
「俺がいなくても大丈夫。岩ちゃんいるから狂犬ちゃんが暴れる心配もないしね」
時刻表と腕時計を見比べてからわたしの隣に立つ。そして自然と話はキャンディーのことに。
「何味だったの?」
「わかんないや。でもおいしいよ」
「そっか、ならよかった。ちなみに色は?」
「赤だったけど…」
「じゃあ俺が当ててみせるよ」
当てる?どうやって?なんて思っているうちに及川の顔がグッと近づいて…
触れた。唇が。
あまりに突然すぎて固まっているわたしからそっと離れて、
「これは…アセロラ味、かな?」
そうつぶやいた。そして瓶の中を指差しながら
「多分この緑はキウイで、ピンクは桃…かな。パッションフルーツってのもあるんだよ。それは何色だったっけかなー」
なんて無邪気に言ってくる。たった今キスをぶちかましてきた人とは思えない話しぶり。どうしてこんなことしたの? すんなり言えない言葉の代わりに出てきたのは涙。こういうことを誰にでも軽率にする男を好きになってしまったのかと後悔が頭の中を駆け巡る。彼はきょとんとしたまま、わたしの顔を覗き込んだ。
「なあに?どうしたの?」
悠長に聞いてくるな、バカ。瓶を鞄にしまい袖で涙を拭ってから彼に背を向け歩き出した。一緒のバスになんて乗れるわけない。時間がかかっても駅まで歩く方がマシだ。それなのに…しばらくすると足音が追ってきて隣に並ばれてしまった。
「もしかして怒ってる?…チューしたこと」
「何であんなことすんの。最低」
本気で怒れない自分が悔しい。だって、嬉しくないはずない。まだ大好きなんだもん。どんなに足を速めても背が高い分足の長い及川を振り払うことができず、どうせ走っても追いつかれるだろうと観念して普通に歩くことにした。