novel

□ゆびきり
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「これが…俺と薫のファーストキスやで…」
「う…うん」
唇が離れると 何だか淋しいような 切ないような気持ちだった
本当は…もう一度 キスして欲しかった
せやけど…
堕威兄ちゃんが 少し切ない様な 悲しい様な 苦しい様な 何とも言えん顔しとって…言えんかった

ファーストキスをした次の日
夜まで堕威兄ちゃんと一緒に過ごした
その日一日は 特別な一日に感じた
キスをしたから
堕威兄ちゃんの恋人なれた気分で…浮かれていた
帰り際に別れを告げられるなんて思いもよらずに

「薫、そろそろ帰るな」
「うん…堕威兄ちゃん…またね♪」
「………薫…俺な…薫ん家に遊びに来るんわ…今日で最後やねん…」
「!!!え!?…もう…泊まりに来てくれへんの……」
「…ごめんな、薫…中学入ってから、学校が忙しいねん!!部活もあるし、勉強もあるし…色々…忙しい…ねん」
堕威兄ちゃんは悲しそうな顔をしていた
「……堕威…兄ちゃん…」
俺も酷く悲しかった
週末に堕威兄ちゃんと過ごせるのが 唯一の楽しみだったから
堕威兄ちゃんは
もう…ここには…来ない
「薫…泣かんで…」
堕威兄ちゃんと
もう…二人で…会えない
涙が止まらなかった
「薫…」
堕威兄ちゃんが俺を抱き締めてくれた
その身体を離したくなくて、堕威兄ちゃんを帰らせたくなくて ギュッと強く抱き付くと
堕威兄ちゃんも 俺を強く抱き締めてくれた
「薫…ごめんな……薫…」
少し 堕威兄ちゃんの声が震えていて
堕威兄ちゃんを胸の中から見上げると
堕威兄ちゃんの目も涙で揺れていた
「堕威…兄ちゃん…」
堕威兄ちゃんは俺の頭を撫で 額にキスをした
それから 頬を撫で 指先で俺の唇を 何度も 何度もなぞっていた
その時 俺の目から涙が溢れて
唇をなぞっていた指が離れて 涙を拭うと
そっと頬に 手が置かれたその手に俺も手を重ねて
目を閉じると
重なる…唇
優しくて 長い 長い キス一度離れた唇が
名残を惜しむように
すぐに重ねられる
もう一度 長い キスの後
ゆっくりと唇が離れて
堕威兄ちゃんの身体も離れて…
「薫………ごめんな…」
そのまま 堕威兄ちゃんは部屋から出て行ってしまった

2回目のキス
堕威兄ちゃんは
もう一度して欲しかったキスをしてくれた
そして
3回目のキスは
堕威兄ちゃんからの
お別れのキスだった…
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