短編
□壊滅的な料理の腕前
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「こうちゃ〜ん」
黎恣が黒い塊を箸でつまみ上げながら、目の前で申し訳なさそうに座る須賀に眼を向けた。
「俺は確か、ペンネとナポリタンを買ってきたはずなんだけど、いつからペンネは備長炭になっちゃったの? 冷蔵庫に入れて消臭でもするの?」
『……そんなつもりはなかった』
「だろうね。狙ってやってたら怒ってるよ」
『怒ってないの?』
「う…ん。まぁ昼飯が備長炭になったとはいえ、食べられないこともないしね」
しょりしょりというかじょりじょり音を立ててペンネ(だったもの)を口に運びながら、黎恣はしょぼんとしたままの須賀に、特にやる気のない眼を向けた。
「……まぁ、こうちゃん頑張ったんでしょ?」
黎恣の問いに、何故かがりがりとメモを急いでかいて差し出してきた。
“そうです”
「なんか“す”が焦りすぎて点のない“お”みたいになってるけど…。ま、いいか。次は一緒につくろうか。ちょっとはましになるんじゃない?」
へらりと笑っていうと、須賀がぱっと表情を明るくした。
最近はこういう表情見ていなかったから、久しぶりに見た。
失敗は失敗だが、まぁこの珍しいもの見れたからいいか、とじょりじょり音を立てて食べる。
「ちょっとでもうまくなってれば、いいコト起きるかもしれないしね」
『?』
若干頬の緩んだ須賀がきょとんと首を傾げて黎恣を見る。
黎恣は「まぁまぁ」と返事を返して、へらりとまた笑みを浮かべた。
「とりあえずこうちゃんも食べたら? お手製備長炭」
『いらない』
「そこは断るのか」
けらけらと笑い声をこぼしながら、しょうがないと箸を突き刺した。
壊滅的な料理の腕前
(こうちゃん、どうやったらこうなるの?)
《火にかけてた》
(おん、そうだろうねぇ。……火加減は?)
《強気に》
(いや、それ強火の間違い……)
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料理下手っていうのもまた可愛いな須賀くんよ
なんだかんだ言いながらきちんと完食する黎恣。
シオちゃんが来たら彼女と一緒にじょりじょりしてるといい