オリジナル

□初恋
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手の届きそうなほど近くにいるのに
私と君の心の距離は遠くて

たった1ミリが遠くて

私の初恋はとても切ない物語



〜初恋〜



「斗真ー!」


ホームルーム終了のチャイムが
鳴るのと同時に教室に響き渡る
明るく可愛らしい声

声のする方を見れば
教室のドアからひょっこり顔を出す
小柄で可愛い女の子がいた

あの子が最近、斗真の彼女になった隣のクラスの……えっと名前なんだっけ


とにかく可愛くて男女問わず人気者
そして斗真の事が大好き

毎日、ホームルーム終了のチャイムと同時に一緒に帰ろうと斗真を呼びに来る


「斗真、帰ろ!」

「お前、来るの早いって」


そう言いながら口角が上がってますよ
斗真くん

そんな私の視線に気付いたのか
斗真がこちらを見る


「なんだよ」

「別に」

「あっそ」


そう言ってカバンを肩にかけ、
くるりと私に背を向ける斗真

でもすぐにまた体をこちらに向けて


「橘」

「?」

「またな」


そう言って彼女と帰って行った




私と斗真は幼馴染みで
家も近くて小さい頃からよく遊んでた

喧嘩は多いけどすごく仲良くて
登下校もいつも一緒だった

いつの間にか私は斗真に
恋心を抱くようになって
気持ちを伝えられないでいたら
斗真に彼女ができた

それを聞いた時、悔しくて悲しくて
胸が締め付けられるように痛かった

私があの子よりも先に「好き」と
伝えていれば何か変わったかな

今更、後悔しても遅くて
斗真には大切な人ができてしまった


毎日のように一緒に帰っていた
帰り道も今では一人

何気なく見た携帯の時計は
学校を出てから5分しか経っていない

斗真がいないと
やけに家までの距離が長く感じる


「斗真がいればなぁ…」


無意識に口から零れたその人の
名前にドキリと胸が高なる

周りに誰もいなくて
聞かれていないことにホッとするが
その後に溢れ出す切ない感情

斗真を好きになって初めて知った

人を好きになることが
こんなにも切なくて辛いものだなんて

斗真を好きになるまで
私は知らなかった




次の日


「橘、お前、まだ数学の課題出してないよな?」

「あ、はい」

「今日、放課後残って終わらせろ」


ホームルームで先生に居残りを命じられ、教室中で笑い声が上がった

そしてホームルーム終了のチャイム

「斗真!」

それと同時に聞こえる斗真の彼女の声


みんながぞろぞろと教室を出て行く中、私は一人数学の課題に取り組む


でも私の集中力は数分も保てるわけなくて、すぐに机に突っ伏した

顔を横に向けると隣の斗真の席が視界に入る

私と斗真って
いつもこんなに近くにいるんだなぁ
手を伸ばしたら触れられる
こんなに近い距離

でも私と斗真の
気持ちが重なり合うことはなくて

私は斗真を見ているのに
斗真はあの彼女を見ていて
縮まることのない心の距離に
どうしようもなく悲しくなる


斗真との心の距離も
もっともっと縮まればいいのに


「バーカ」


静かな教室に突然響き渡った声に
私の体はビクッと震えた

顔を上げると
今ずっと頭の中にいた人がいて
私の心臓は動きを速める


「なんだ、斗真か」

「なんだってなんだよ」


自然と上がる口角を隠すために
また口元を隠すように姿勢を崩す


「彼女と帰ってたんじゃないの?」

「あー先生に捕まってた」


そう言って斗真は隣で荷物をまとめて帰る準備をしだした

ああ、帰っちゃうんだなぁ…

そんな風に思っていたら
私の前の席に斗真が
体をこちらに向けて座った

驚いて目を丸くする私に
頬杖をつきながら斗真が言う


「早く課題やれよ」


息の詰まりそうな距離に
私の胸はぎゅーっと締め付けられる


「斗真、帰らないの?」

「今日くらい一緒に帰ってやろうと思って」

「なんで上から目線なの」

「はははっ」


その優しさも、その笑顔も全部
斗真の全部
私だけのものにしたかったのに


「お前のことだから一緒に帰る彼氏も出来ねぇだろ」


なんで


「早く彼氏つくれよな」


なんでこんなに近いのに
こんなに遠いの?

1番近くにいたはずなのに
いつの間にか1番気を使って
1番遠い存在になってた

ラクな恋を選んで満足できるなら
幸せになれるならとっくに選んでる
だけど、この道を選んだのは
どうしても斗真じゃないとダメだから
斗真がいいの


課題に指差しながら
数学の問題を説明してくれてる斗真


「斗真」


私の口から零れ出す
私が初めて好きになった人の名前
初恋の人の名前


「ん?」


顔を上げた斗真の目にはきっと
涙でぐしゃぐしゃになった
私の酷い顔が写ってるんだろうな

次々と溢れ出す涙は
止めたくても止まらない


「なんで泣いてんの?そんな俺の数学の教え方下手だった?あ、教えるとか余計なお世話だった?」


私は首を横に振る

違う、教え方が下手とか
教えられるのが嫌だったとか
そんなんじゃない

これは今まで我慢してた涙


「斗真」

「ん?」

「私、もう斗真にとってただの幼馴染みでしかないね」


いつも「またな」って他の子には
言わないのに私には言ってくれたのも
たまに弱いとこ見せてくれたのも
すごく楽しそうに笑ってくれたのも

私が斗真の幼馴染みで
斗真にとって「特別」だからだと思ってた

でも斗真には彼女ができた

新しく「特別な人」ができた


もう私は特別でも何でもない
ただの幼馴染み


こんなに好きでも
どんなに願っても叶うことのない恋


「斗真にとって私は特別じゃないかもしれないけど、私にとって斗真は特別なの」


言葉にするだけで
胸の奥がギシギシと音を立てて
私の心を痛めつける

握り締めた手の甲に
大粒の涙が零れ落ちていった

今更言っても叶わない
言葉にするのが遅すぎた私の初恋



「斗真が好き」



静まり返った教室に響き渡った
涙声で震えている私の精一杯の告白

斗真は悲しそうな表情を浮かべた後
手のひらで髪の毛をくしゃっとして言った


「…おせぇよ」


そう、遅かった

斗真に彼女ができる前に
斗真の彼女よりも先に
私が想いを伝えていれば
何か変わったかもしれないのに

この告白はもっともっと前に
言葉にしなければならなかったもの


人を好きになるということは

嬉しいこと
楽しいこと
幸せなこと

全部がいいことばかりではない


人を好きになるということは

寂しいこと
悲しいこと
辛いこと

切ないものだということ


私が初めて人を好きになって
これが初めて分かった

私の知らなかった感情を
教えてくれてありがとう


斗真を好きになって良かった


悲しくて切なかったけど
素敵な初恋をありがとう



END

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