オリジナル

□私の太陽
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なんで好きなの?

そんなこと聞かれたって
理由なんて分からない

気付いたら好きになってた



〜私の太陽〜



じりじりと照りつける太陽の下で
グラウンドを駆け抜け
爽やかに笑うその人を
私は今日も無意識に目で追っていた


「まーた斗真先輩見てる」


杏菜のその一言で
私は我に返る

斗真先輩と私は
先輩後輩という関係でもあるが
サッカー部のプレーヤーと
マネージャーという関係でもある

そんな斗真先輩を
私は気付いたら好きになっていて


「先輩ばっかり見てないで仕事してよね、ほら洗濯しに行くよ」

「あーはいはい」


どうしても無意識に目で追ってしまう
そして何より部活に行くのが楽しみで
常に私の頭の中は斗真先輩でいっぱいだった


「ニヤけないでよ、なんか怖い」

「いやーだって、かっこ良すぎて」

「私にはよく分かんない、どこがそんなにいいの?」


どこが、なんて言われても
私もよく分からない

失礼かもしれないけど斗真先輩は
ずば抜けてイケメンだというわけではないし

世界中探せば先輩より
かっこいい人なんて
山ほどいるんだろうけど


でも私の中では斗真先輩が一番で

他の誰よりもかっこいいと思う


「そんなに好きなら告白しちゃえばいいのに」

「そんな簡単に言うけどさー、私と先輩は親しい関係じゃないし告白したってどうせフラれるよ」

「ふーん、まあ言うか言わないかは莉梛の勝手だけど…そんなこと言ってると他の子に持ってかれちゃうよ?斗真先輩」


そんなの言われなくても分かってる

でも私の先輩を好きだという気持ちを
伝えたらフラれる気がして
なんというか…怖い、から

もっと先輩と親しくなって
もっともっと先輩との
距離を縮めることができたら

私はこの気持ちを
斗真先輩に伝えたい



私と杏菜が
グラウンドに戻ると
丁度練習が終わって選手達が
コーチのところに集まっていた

私の目にすぐに映るのは
やっぱり斗真先輩で

ああ、やっぱりかっこいい
あの真剣な顔もサッカーしてる時も
優しくて明るい性格も声も
爽やかな笑顔も全部

斗真先輩が一番かっこいい


私が先輩を見ていたら
何の偶然か斗真先輩と目が合った

吸い込まれそうな綺麗なその瞳に
私は目を逸らすことができなくて

そんな私に斗真先輩は
優しく微笑んでくれた

なにあれ…

隣にいる杏菜に
聞こえてしまうんじゃないかというくらい大きく音を立てて動き出す心臓

私は俯くように斗真先輩に
頭を下げることしかできなかった



それから数日間
私には嬉しいことが続いている

部活が終わると
「莉梛ちゃん、お疲れ」
と、笑顔で言ってもらえたり

タオルを私に預けてくれたり

部活じゃなくても
おはようと挨拶してもらえたり

そんな些細なことが
私にとってはすごく嬉しいことで
思い出すだけでニヤけてしまう



そんなある日のこと

部活が終わって私はいつものように
ジュースを買おうと自販機へ向かう

サッカー部は他の部活より
いつも長いからもう校舎には
ほとんど生徒はいなくて

窓から差し込むオレンジ色の光が
なんだか薄気味悪い

さっさと買って帰ろうとカバンから
財布を取り出そうとするが
どうやら私は財布を
家に忘れて来てしまったらしい

もう一度よくカバンの中を探していると
聞き覚えのある声が聞こえた


「どうしたの?」


その声にハッとして私は顔を上げる
そこには斗真先輩がいて
私の心臓がドクンと動き出す


「あ、あの…財布忘れて来ちゃったみたいで」

「はははっ、それでジュース買えなかったんだ」


あ、笑った

斗真先輩の笑った顔を
こんなに近くで見たのは初めて

先輩は自販機にお金を入れると
ジュースを2本買って
その1本を私に差し出した


「えっ」

「あげる、これいつも飲んでるでしょ?」


先輩が差し出したジュースは
私が部活帰りに毎日買っている
トロピカルジュース

悪いです、と私が言っても
先輩は全然いいってと微笑んでくれる

私はそのジュースを手に取って
先輩に頭を下げる


「ありがとうございます!あ、お金は必ず返し、」

「ははっ、いいってそんなの。それ俺のおごり」


私の言葉を遮るようにして
笑顔でそう言う先輩

顔を上げるとばっちり目が合って
顔に熱が集まってくるのが
自分でも分かった

もう心臓が保たない


「ありがとうございます」

「うん、どういたしまして」

「…じゃ、じゃあ私はこれで。お疲れ様でした」


そう言って私は玄関へ向かおうとした

でもその道は


「待って」


斗真先輩によって遮られた

先輩は自販機に片手をついて
私が顔を上げると
また綺麗な瞳と視線がぶつかる

いつもより真剣な目をしていて
自販機と先輩に挟まれた状態で
私の心臓は大きく跳ね上がる

息をするのを忘れるくらい近い距離


「気付いてないの?」

「え…?」


斗真先輩が
何を言っているのか分からない

何の話?と頭の上に
クエスチョンマークが飛び交う私を
見て先輩がぼそっと呟く


「やっぱり」


気付いてるとか、気付いてないとか
今どうして私はこんな状態なのかとか
いろいろ分からなくて
私の頭がパンクしそうになっていたら
斗真先輩が口を開く


「俺、アピールしてれば気付いてくれるとか思ってた」

「……?」

「でもやっぱ、ちゃんと言葉にしないとダメだよね」


ごめん、ちゃんと言う

そう言って私の顔の側に
置いてあった手がするりと抜けて

窓から差し込む夕日の色で
頬をオレンジ色に染めて

真っ直ぐに斗真先輩が言った



「莉梛ちゃんが好きです」



目頭が熱くなって自然と溢れ出す涙

夢みたいで信じられなくて
すごくすごく嬉しくて

泣きながら私も好きだと先輩に伝えると
先輩は私の腕を引いて
優しく抱き締めてくれた


暖かくて心地よい太陽のような人


夕日に照らされて
地面に二つの影ができた帰り道

私が横を見上げれば
優しく微笑んでくれる斗真先輩


私の太陽はこの人です


END

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