小説

□■美しい悲しみ
1ページ/1ページ

9月1日:ハマナシの花言葉『美しい悲しみ』


***************

砕け散った氷の欠片が、輝きながらハラハラと宙を舞う。




造形魔法は自由の魔法。
この世に在る形ある物ならば何でもこの手で作り出す事が出来る。
けれど、どれ程錬成を重ねようと、どれ程精度を上げようと、温かな血が通う肌も、くるくると目まぐるしく変わる瞳も、俺を呼びながら嬉しそうに笑うあの表情も作り上げることは出来なかった。
出来あがったジュビアの形をした氷に手を伸ばし、冷たい頬に触れ、抱き寄せてみても、遠くを見つめるその目に俺は映らない。
目の前にあるのは、生きている匂いのしないただの氷の塊だ。
何度造形を試そうと、頭の中にあるアイツの姿と重なることは無く。
歪な造形人形を前に、苛立ちだけが体中に渦巻いていく。

違う。
違う。
違う。

アイツはもっと美しかった。
強い輝きを放つ瞳には必ず俺が映り、優しく微笑んでは俺を心ごと包み込んでくれた。
不格好に立ち尽くす氷の人形に耐えきれず拳を振りおろせば、ガラガラと音を立てて造形は崩れ去って行く。

「…っく……う…っ――」

堰を切った様に涙が溢れ、嗚咽が漏れる。
泣き崩れ、砕けた氷の残骸の前に跪くと、掌から滴り落ちる鮮血ごと拳を強く握り、そのまま何度も床に打ち続けた。

その場にうずくまったまま動けない俺の耳の奥に、赤ん坊の泣く声が響く。
行かなければ。
頭では分かっているのに、体が動かない。

ジュビア…
まだ目も開かない子供を残して、どうして死んじまったんだ。


氷で出来たジュビアの瞳から、表面が溶けて出来た一筋の水が流れ落ちた。

〜終〜

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ