小説

□■ライバルは父?!
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※冥府の門編の後、シルバーがもし生きていたらという捏造小説




最近の俺には、うっとおしいヤツが2人居る。
一人はもちろんジュビアで、これはもう日常茶飯事のうっとおしさなので今はさほど気にならないが、問題はもう一人の方だ。
コイツは、それこそ顔も見たくない程の嫌悪を抱く相手で、そいつに会った日は、その後数日間鏡の前に立つのが嫌になる。
同じ様な背格好、同じく癖のある黒髪、垂れ目、同じ様な声。
そりゃ、血が繋がってんだから当たり前だけど、思い出すだけで腹立たしいコイツは、俺との間に十数年のブランクがあるにも関わらず、やたらと慣れ慣れしく、ちゃらちゃらと人の周りを徘徊しては、俺の日常を壊していく。

そして今日も…

「おう、早えお帰りじゃねえか。ちゃんと仕事してきたのかー?」

泊まりがけの仕事を終わらせ、昼過ぎにマグノリア駅へ到着した俺を待っていたのは、にやにやと不用意に近づいて来る、額に傷のある男だった。
なんで地元へ帰って来て早々、この男の顔を見なけりゃならねーんだと、どっと疲れが増す。

「大きなお世話なんだよ、くそジジイが。毎度毎度俺に構うんじゃねー」
「まあ、そう言うなって。せっかく出迎えてやったんだからよ」
「誰も頼んでねーだろ!」

ロクに顔も会わせず、くたくたの身体からやっと絞り出した苦言は飄飄と流され。
当然の様に親父は、ギルドへ向かう俺の横を歩き始めた。
今回の仕事の内容や出来や、最近ギルドに来る依頼傾向などを聞かれ話していると、そのうち親父は思い出した様に話を切って、後ろを振り返った。

「今日はあの娘さんは一緒じゃねーのか?ほら、あの…」
「ジュビアなら、ガジルと一緒にクエストに行ったぜ。たまには俺一人で仕事に行ったっていいだろ」
「とか言って、先にあの子がガジルっつー若いのと仕事の予定入れちまったから、当て付けで泊まりがけの依頼を選んだっつーオチだろ?な?おっ?図星か??」
「うるせーんだよ!」

しつこく絡んでくる親父を追い払おうとして、持っていたカバンを振りまわすと、カバンの軌道は見事、「お前もまだまだガキだねー」と高笑いし油断しきっていた親父の後頭部をかすめた。

「っぶね!てめえ、親に向かって何しやがる!!」
「昨日今日突然現れて、父親面すんじゃねー!」
「あ?やんのかくそガキが」
「ああ゛?上等だぁこの死に損ないが」

カバンを地面に放り投げ、お互いの胸ぐらを掴むと、親子揃ってこの柄の悪さだ。
大通りから一本外れた脇道で、一触即発状態の俺達は、どこからどうみてもチンピラ同士の喧嘩にしか見えなかっただろう。
しかしこの年齢位のオヤジは、ギルダーツもそうだが、なんでこうしつこく人の痛いところを根掘り葉掘りしてくるんだ。
まして、そのあてずっぽうが間違って無ねーんだから、余計に性質が悪い。
だがさすがに父親に手を上げるのは如何な物かと、精神力をフルに使って自重していると、遠くの方からよく見た知った人物が、大声で叫びながらこちらへ向かって走ってきた。

「やっと見つけました!!こんなところに居らっしゃったんですね!!!」
「げ!ジュビア!」
「お、噂をすれば」

パタパタと効果音がつきそうないつもの小走りでは無く、何かに追い立てられるように勢いよく走り込んできたジュビアに、俺は一瞬身構えた。
人通りが少ないとはいえ、こんな公衆の面前で抱きつかれるのか?
それともその勢いのまま押し倒されんのか?!
ああ、黙って一人でクエスト行っちまったから、泣かれるってパターンもあるな。
どんな未来が待っているにしても、俺の所に飛び込んでくるのは必須だろう。
それならその際の親父の冷やかしに対してどう切り抜けるか…なんて所まで思考が及んだが、なぜかジュビアは俺に見向きもせずに、横に居た親父の方へ向かっていった。

「シルバー様!ジュビアとデートして下さい!」
「おおおおおい、ちょいちょいちょい待った」
「は…??」

まるで目に入っていないかのように俺を素通りしたジュビアは、親父の腕を強引に取り、そのまま少し離れた所までぐいぐいと連れて行ってしまった。

(まさか俺と親父を見間違えたのか?)

だが確かに親父の名前を読んでいたのだから、それはない。
というか、ジュビアが俺と誰かを見間違えるなんてありえない。
それよりもだ。
今アイツ、聞き間違えじゃなければ…

「デートって言ってたね」
「うおおおお!!ロキ!!!いつから居やがった!!」

突然湧いて出たオレンジ頭に驚き仰け反ると、ロキは「親友に向かってそれは酷いよ」と、心外だと言わんばかりの顔を向けた。

「たまたま通りかかったんだよ。それよりさ、ジュビア、今デートって言って無かった?」

第三者のロキにまで聞こえてたって事は、やっぱりあれは空耳じゃなかった。
ジュビアと親父はこそこそ何かを話していたが、こちらまで聞こえる声量では無く、楽しそうに身ぶり素振りをするジュビアの様子がまた腹立たしい。
ロキにだけは二人の会話が聞こえるらしく、頭上の猫耳をピクピクとアンテナの様に二人に向けながら、わざとらしく「ふーん。明後日……ふんふん。隣町の広場に12時?…へーなるほどねー」と、口にしていた。
面白おかしく話を誇張しようとするロキの思惑が見て取れ、俺は二人の事を気にしない様にそっぽを向いていた。

「ではシルバー様、お待ちしておりますね!」
「おーう」

軽快な声が聞こえて顔を挙げると、どうやら話が終わったらしく、ほんのり頬を染めたジュビアに見送られながら、背中越しに手を挙げ、親父がノロノロとした足取りでこちらへ戻ってきた。

「あ!グレイ様もお帰りなさい!でもジュビアこれからお仕事なんです!お土産買ってきますから、待ってて下さいね!あっ、ロキも、またギルドで〜!」
「変なのが居るかもしれねえから、気ぃ付けて行くんだぜ」
「あ、はい!行ってきます!」
「いってらっしゃいジュビ――いたっ!!!」

ついでの様に俺に手を振るジュビアに、何故か親父が返事をするので、俺は応えかけた手の行方が掴めず、誤魔化す様にロキの頭をはたいた。
なんだここの対応の差は。
大体、明後日、マグノリア広場で、12時に何するつもりなんだよ。
どう考えても待ち合わせじゃねえか。
二人の接点など、考えてみても見当たらないのに、何時の間に二人で出掛ける様な仲になったんだ?!

問い詰めてしまいたかったが、隣の親父の顔があまりに涼しげで、ここで“デートってどういうことだよ”と聞いてしまったら、無条件で敗北の汚名を着せられる気がして、聞くに聞けなかった。
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